ドラキュラ伯爵の役で知られる怪奇映画の大スター。7日に93歳で亡くなった英国の俳優クリストファー・リー氏の訃報で、そんな解説を目にした。たしかに、1958年の映画「吸血鬼ドラキュラ」でみせた存在感は強烈だった。長い歳月を経ても思い出せるほどに。
▼わりあい最近の作品では、世界的な大ヒットとなった「ロード・オブ・ザ・リング」3部作でのサルマン役が有名だろう。真っ白の長髪に真っ白の長いひげをたくわえ真っ白の長衣に身を包んだ魔法使い。一見すると威厳たっぷり。実は悪の代理人。なるほどリー氏らしい役回りだ、とは最初にみたときに浮かんだ感想だ。
▼と同時に、いささか落ち着かない気分にさせられた記憶もある。リー氏の演じたサルマンの外見が、パレスチナのイスラム原理主義組織、ハマスの創始者であるアハマド・ヤシン師に似ていたからだ。そして3部作の公開が完了した翌年にあたる2004年、ヤシン師は殺害された。イスラエル軍のミサイル攻撃によって。
▼日本政府や国連を含め、世界中からイスラエルを非難する声があがった。それでも、あの映画に胸を躍らせた子供たちがヤシン師の殺害を伝えるニュースで写真をみたらどう感じたか。想像して何ともいえない不快感を禁じ得なかった。リー氏や映画をつくった人たちに政治的な意図はなかったろう、とは思うのだけれど。
クリストファー・リー、ロード・オブ・ザ・リング、春秋