社説:香港選挙改革 信頼揺らぐ1国2制度
毎日新聞 2015年06月20日 02時30分
中国の特別行政区である香港の立法会(議会)は2017年の香港行政長官選挙に1人1票の「普通選挙」を導入する選挙制度改革法案を否決した。民主派の立候補を排除する制度に民主派議員が「ニセの普通選挙だ」と反対し、可決に必要な3分の2の賛成を得られなかった。
中国は1997年の香港返還前に約束した「1国2制度」や「高度な自治」に対する不信の高まりを直視すべきだ。改革は白紙に戻り、次期長官は現行制度に基づき、各界代表で構成する選挙委員会(1200人)で選ばれるが、より民主的な普通選挙を早期に実施する必要がある。
普通選挙は香港基本法に最終目標と明記された懸案だが、中国は有権者500万人以上が参加する選挙を認める一方、立候補に条件を付けて中国に批判的な長官の誕生を防ごうとした。基本法の最終解釈権を持つ中国の全国人民代表大会(国会)が昨年8月、指名委員会の過半数の支持を立候補の要件と決めたのだ。
指名委員会は現在の選挙委員会と同様に各界代表1200人で構成される。民主派の勢力は200人前後とみられ、過半数確保は困難だ。民主派や学生らは全人代決定に反発し、香港主要部の道路を占拠して抗議活動を繰り広げ、「雨傘革命」として国際的な注目を集めた。
しかし、中国は抗議活動を「国外の敵対勢力」の陰謀とみなして制度修正を認めず、香港政府は中国の意向に沿った改革法案を立法会に提出した。直前の世論調査では法案に賛成する人が反対を若干上回っており、民主派も難しい判断を迫られたが、「真の普通選挙」の実現を求め、反対を貫いた。
中国は「我々が目にしたくない結果だ」(外務省報道官)と表明し、梁振英(りょう・しんえい)行政長官は「政府と市民は極めて失望した」と語った。中国案にノーを突きつけた民主派も今後の民主化進展に展望があるわけではない。「勝者のない結末」との悲観的な見方もある。
懸念されるのは民主化の機運がそがれ、世界水準の民主主義実現を求める若者らの不満が一層高まることだ。中国や香港政府が法案否決を理由に選挙改革を放置すれば、占拠運動のような混乱が今後も起こりうる。
返還後17年。全人代が解釈権を使ってたびたび香港政治に介入したり、香港政府が中国の意向を受け、愛国教育の導入を目指したりしたことで「1国2制度」への信頼が揺らいだ。香港世論は民主派と親中派に二分され、安定を損ねている。民主派を排除するのではなく、意見を取り込みながら、香港が受け入れ可能な選挙制度案を再度、模索することが中国にとっても上策ではないか。