社説:派遣法改正案 待遇改善にはならない

毎日新聞 2015年06月20日 02時40分

 労働者派遣法改正案が衆議院で可決された。「派遣で働く人の待遇の改善を図るものだ」と安倍晋三首相や塩崎恭久厚生労働相は強調するが、これで本当に待遇改善が実現できるとは思えない。

 同一労働同一賃金法案も可決された。派遣でも正社員と同じ仕事をすれば同じ賃金を得られるのであれば、首相らの主張も一理あるだろうが、法案は重要な部分が骨抜きにされ、派遣法改正案を通すために利用されたと断ぜざるを得ない。

 派遣法改正案は、悪質な業者を排除するためすべての派遣事業を許可制にし、派遣先企業が派遣労働者を直接雇用するよう促すことを盛り込んだ。派遣労働者への教育訓練実施や福利厚生施設を利用できるよう会社側に求めた。企業の自主的な取り組みに委ね、それを行政指導で後押しするというものに過ぎない。

 むしろ派遣期間の上限を撤廃するため、企業はずっと派遣労働者を使い続けることができるようになる。現在は期間制限のない専門26業務も一律3年の期間制限が適用されるため、秘書などで長年働き続けた人が解雇されるリスクに直面する弊害も予想される。

 正社員の長時間労働を解消し、多様な働き方が実現できるような労働法制の改善は必要だ。自由な働き方を望む人も多い。厚労省の調査でも派遣労働者のうち正社員になりたい人と派遣のままを望む人はほぼ同じ割合で存在する。そのためには派遣労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」の実現は不可避だ。

 ところが、与党と維新が修正して可決した同一労働同一賃金法案は看過できない言い換えが行われている。「法制上の措置」は「法制上の措置を含む必要な措置」に、「職務に応じた待遇の均等な実現」は「業務の内容及び責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現」に変わった。

 派遣労働者の賃金水準は正社員の6〜7割しかなく、同一労働同一賃金は人件費コストの増加を意味する。しかし、「均衡」などあいまいな表現にした修正案で、経営者は何とでも理由を付けて低賃金で派遣労働者を使い続けることができることになる。

 経営者の意向次第で従業員が残業や出張や転勤を強いられる日本型雇用には改善すべき点がたくさんある。個々の労働者の専門性が重視され、生活スタイルに合った多様な働き方を可能にするには、公的職業訓練や失業・休業補償をはじめ社会保障政策の充実が不可避だ。企業の職場慣行や意識も抜本的に変えないといけない。

 中身の伴わない法律を通したところで、現実が変わるとは思えない。

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