「設立宣言」「設立趣意書」からみる日本会議の系譜――シリーズ【草の根保守の蠢動 第4回/後編】
本シリーズも今回で連載6回目(途中番外編2編を含む)を迎えた。このシリーズは、安倍内閣の8割以上の閣僚を支え、各方面で活発な運動を展開する日本会議の全体像を明らかにし、その問題点と日本会議に支えられる安倍政権の危うさについて指摘することを目的としている。
その手始めとして、前回、「日本会議に集まる宗教団体の面々」と題し、日本会議に集まる宗教団体の多さとそれら宗教団体が教義や信仰対象の違いを超えて連帯する様子をお伝えした。
⇒【前編】『日本会議を語る際、「陰謀論」は不要である』 http://hbol.jp/31969
「設立宣言」「設立趣意書」からみる日本会議の系譜
幼稚で拙速な陰謀論的総括と、誤解を排した上で、まずは、日本会議が辿ってきた歴史を振り返ってみよう。
日本会議が設立されたのはいまから18年前の1997年。この間、日本会議は「ジェンダーフリー」政策反対運動や改憲運動、そして靖国公式参拝要請運動など、「右傾化政策」の運動の現場で常に先頭にたちつづけてきた。また、その主張の一部を、国旗国歌法の制定(1999年)や教育基本法の改正(2006年)などの形で、政策として実現させてきた (著者不明 2006) (著者不明 2006)。
日本会議の公式サイトには設立大会で採択された「設立宣言」が残っている(http://www.nipponkaigi.org/about)。
この設立宣言は「ここに二十有余年の活動の成果を継承し、有志同胞の情熱と力を結集して広汎な国民運動に邁進することを宣言する。」という一文で締めくくられている。つまり、日本会議には1997年の設立以前から「二十有余年の活動」期間があったというのだ。
さらに日本会議が公開している設立当初の文書を見ていこう。
設立経緯を説明する「設立趣意書」は
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我々「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」は、設立以来20有余年にわたり、戦後失われようとしている健全な国民精神を恢弘し、うるわしい歴史と伝統にもとづく国づくりのため相提携して広汎な国民運動を展開してきた。
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との書き出しで始まる。
つまり、先ほど引用した「設立宣言」の言う「二十有余年の活動」とは、「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」が行ってきた活動であり、この2団体が日本会議の前身団体であるということだ。この2団体のうち設立が早かったのは「日本を守る会」で、1974年のことだ。「日本を守る会」の出発から考えると日本会議の活動歴は、実に40年の長きにわたるということになる。
この40年間に「日本を守る会」「日本を守る国民会議」そして「日本会議」が展開した様々な活動は、日本会議WEBサイトの「国民運動の歩み」コーナーに年表方式でまとめられている(http://www.nipponkaigi.org/activity/ayumi)
この表をみればいかに彼らの運動が多岐にわたりかつ執拗なものであるか一目瞭然だろう。
元号法制化運動が全ての始まりだった
特に注目していただきたいのは、この年表の冒頭付近、昭和52年前後からはじまる「元号法制化運動」に関する記述の多さだ。
GHQの占領政策の一環として、明治 大正 昭和という元号に法的根拠を与えていた皇室典範が改正されたのは1947年のこと。改正直後には元号制に関する白熱した議論が国会で展開されたものの、独立を回復する過程でこの問題はすっかり人々に忘れ去られてしまっていた (ルオフ 2003, 258)。自民党でさえも元号制の維持については積極的ではなく、政府も1961年には元号制に法的根拠がないことを国会答弁で明確に認めた。
無論、このような風潮に神社本庁や遺族会をはじめとする旧来の保守陣営は躍起になって反論する。しかし、世論を動かし政府与党を動かすまでには至らない。
そんな風潮を一気に変えたのが、「日本を守る会」だ。
「日本を守る会」は、地方議会での意見書採択運動の展開・全国各地での元号法採択要求デモの実施・各界著名人を招聘しての元号法シンポジウムの開催などの運動を大々的に展開し、政府与党への圧力を強め、その結果、運動開始後わずか2年で、元号法の立法という成果を獲得した。
数々の保守系団体が長年かけても成功しなかった元号法制化を、「日本を守る会」がわずか数年で達成したことは、保守陣営に衝撃を与えた。この後、神社本庁や遺族会などの旧来の保守団体が「日本を守る会」の周囲にあつまり、連帯を強め、運動手法を取り入れるようになっていく。
元号法制定運動で40年前に鮮やかなデビューを飾った「日本を守る会」。その流れが2015年の現在、我々の前にそびえ立っているのである。
次回は、元号法制定運動をさらに詳細に分析し、日本会議の前身団体である「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」の役員名簿を読み解き、「今に至る流れ」の連続性を明らかにする。
期待されたい。
【文献目録】
ルオフJケネス. 国民の天皇. 東京: 共同通信社, 2003.
篠ケ瀬祐司, , 三沢典丈. “草の根保守の先兵「日本会議」.” 東京新聞, 2015年3月28日.
篠ケ瀬祐司, 林啓太, , 佐藤圭. “日本最大の右派組織 日本会議を検証.” 東京新聞, 2014年7月31日.
著者不明. “日本会議 – 安倍の知られざる基盤-中核は宗教原理.” 選択, 2006年10月: 54-57.
島薗進. “現代日本の宗教と公共性.” 宗教と公共空間 見直される宗教の役割 [東京大学出版会], 2014: 261-293.
<文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
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