理化学研究所(理研)は6月18日、うつ様行動を示すマウスの神経細胞を操作して、過去の楽しい記憶を活性化することで、うつ状態を改善することに成功したと発表した。
同成果は、理研脳科学総合研究センター 理研-MIT神経回路遺伝学研究センターの利根川進 センター長、スティーブ・ラミレス氏らの研究グループによるもので、6月17日付(現地時間)の英科学誌「Nature」に掲載された。
楽しい体験の記憶は、海馬歯状回の特定の組み合わせの神経細胞の活動によって保存されることがわかっており、同研究グループは2014年に光遺伝子学を用いて、マウスの嫌な体験の記憶を楽しい体験の記憶に書き換えることに成功している。
実験ではまず、オスのマウスにメスのマウスと一緒に過ごすという楽しい体験をさせ、その時に活動した海馬の歯状回の神経細胞を標識した。
次に、そのオスのマウスに体を固定する慢性ストレスを与えて、うつ状態になったことが確認されたあと、楽しい体験の記憶として標識された海馬歯状回の神経細胞群に光をあてて人工的に活性化したところ、うつ状態の改善が確認された。
さらに調べると、このうつ状態の改善は、海馬歯状回から「恐怖」「喜び」といった情動記憶に関わる扁桃体の基底外側部を通り、やる気や意欲に関与する側坐核シェルと呼ばれる領域へとつながる回路の活動によるものであることがわかった。したがって、メスのマウスと一緒にいるという楽しい体験の最中に実際に感じた喜びの記憶や感覚などが細部まで呼び覚まされて、症状の改善につながったと考えられるという。
研究グループは「今のところ、ヒトの楽しい記憶を細部まで再現するような神経細胞の活性化技術はまだ確立されていませんが、今後このような技術の開発を進めることで、うつ病の新しい治療法の開発につながることが期待されます。」とコメントしている。
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