鴨居欣次郎 堤真一さん 背中を見せればいい、と思っていた。
鴨居は息子・英一郎に何も言えないというより、言う必要がないと思っていたんでしょうね。 これは大正という時代や、日本らしい考え方だと思うけど、「父親とは、子供に背中を見せて育てるもんだ」という思いがあるから。 「必死に働いて、会社を成功させて、その姿を見せれば十分やろう」っていう思いはどこかにあったと思うんです。 でも子供にとっては、仕事が成功することよりも、「家族を大事にしてくれることが一番だ」ってことを彼は気づけなかった。 もし気づいたとしても、そのやり方が分からなかったでしょうね。
鴨居って、経営者としては、ちょっとくらい壁があっても「かまへん、行ける!」と直感を信じて進む力があるけど、 子供のことになるとすっかり分からなくなる。「何が間違ってたんやろう……?」っていう(苦笑)。 そこがおもしろいし、人間らしいなと思いますね。
父と息子の、見えない溝。
鴨居英一郎 浅香航大さん 認められたいし、やっぱり愛されたい。
父・鴨居に対しての英一郎の気持ちは、僕自身、共感できるところが多いです。 英一郎は無意識かもしれないけど、やっぱり父を意識しているんでしょうね。 実は憧れもあると思うし、父を越えたいという気持ちもあるし、長男として誰よりも認められたい。 僕、浅香航大も、常識人でいつもスジが通っている父のことはすごく尊敬しているけど、 「がんばれよ」って言われることがうれしい反面、いつまでもそう言われていることが悔しかったりしますから。 おやじへのウラハラな思いって、いつの時代もあると思うんです。
さらに英一郎は、母を亡くしてしまったことで、父への不信感が解消できないまま育っている。 それについて何も言わない父と一緒で、英一郎も頑固で不器用だから、どうにもかみ合わないだけなんでしょうね。 本当は、父からの愛がほしいんだと思います。
鴨居欣次郎 堤真一さん 言葉にせず、感じてもらいたかったんだと思う。
マッサンとエリーに英一郎を預けたのは、マッサンを自分に重ね、エリーを亡き妻に重ね、 英一郎が何かを理解してくれるんじゃないかって考えたんだと思う。 それが逆効果になっちゃったところはありますけどね(苦笑)。言葉にはしないけど、知ってもらいたいという思いはある。 僕ら夫婦の生き方が、マッサンとエリーと同じなんだと示したかったんじゃないかと思うんです。
鴨居英一郎 浅香航大さん マッサンとエリーに、家族の姿を投影して……。
英一郎がマッサンに対して反発心があるのも、どこか父と似ているから。 マッサンの家での居候生活が始まってすぐ、エリーには母の面影を感じたんですよね。 だから、父と同じようにマッサンが大きな夢を持っていて、その夢を追うあまりにエリーを大事にしないことには、 すごく敏感に反応してしまう。マッサンとエリーに、自分の家族を投影しているところはきっとあると思います。
「その子どもは何人になるんや?」 巡査の疑問を、笑いでかき消す一同。 「いじめられるでしょうね、この国では」 英一郎の厳しいひと言。 「せーの・・・おめでとうー!!」 エリーの妊娠に気づいたご近所面々は、こひのぼりでのサプライズパーティを企画。 「英一郎、えらい。自分の思ったことをちゃんと言える私たちの子どものこと、心配してくれた、ありがとう」 英一郎に対して、ほほ笑むエリー
凍りついた心が解けるように、英一郎の涙があふれだす。 それを包み込む、エリーの愛。
鴨居英一郎 浅香航大さん ずっとほしかった愛が、ここにあった。
「子供がいじめられたらみんなで守る」と言いきる、心のあったかい人たちが目の前にいて。 こんなに愛のあふれた場所が身近にあったんだと感じて、カラに閉じこもっている自分は何をしているんだろう?という気持ちになりました。 うらやましさもあり、すごく切ない気持ちにもなったし。 英一郎は大きな愛に直面するのがすごくこわかったけれど、本当は、すごく求めていたんだと思います。 「いじめられるでしょうね」という言葉は、英一郎の本心です。 マッサンが浮かれているから、本当に子どものことを考えているのか?っていういらだちもあったと思う。 でも伝えるのが不器用だから、あんなトゲのある言葉になってしまう。 それをエリーはすごくプラスに受け止めてくれて、「英一郎はえらい、ありがとう」って。 その大きな心に、涙がこらえられなかったんでしょうね。
エリーの目が見られなかったのは……。
英一郎がこひのぼりに入ったときから、エリーはずっとこっちを気にしてくれていたんですよね。 それを感じていたから、僕がきつい言葉を投げかけるとき、何となく、エリーの顔が見られなかった。 だからああやって、マッサンにぶつけるような形になったんです。 泣きじゃくる僕をエリーが抱きしめて、頭にキスしてくれたのは、脚本にはないアプローチなんです。 あのとき、英一郎の亡き母を思い出したような、そんな気持ちになりました。 あのシーンをいま思い返しても、浮かんでくるのはエリーの慈悲深い目や表情。 シャーロットはいつも心を伝えようとする芝居をしてくれるから、その演技に優しさがにじみ出てくるんです。 言葉よりも何よりも、一番感じたのは、温かさですね。
エリー シャーロット・ケイト・フォックスさん こんなステキな瞬間は、他にないでしょう?
英一郎のお母さんはすでに亡くなっているし、お父さんはそばにいないし、彼の周りには誰もいなかった。 英一郎はいつも自分のカラの中にこもっていたので、エリーはそこから出てきてくれるのをずっと待っていたと思います。 このシーンで英一郎が意見したとき、彼にはちゃんと思いがあって、それを表に出してくれたことが本当にうれしかった。 だから、エリーは思わず抱きしめたんだと思います。とてもすてきなシーンでした。
今週の気になるセリフ! テイスティングワード
英一郎を探しとる、求めてくれとる人が、この世の中には必ずおる
マッサンとゆりかごをつくるシーンでの、マッサンのセリフです。 言葉というよりは、玉山さんの言葉のトーン、セリフに乗っかっている温かみにグッときちゃうんですよね。 何か色をつけるわけでもなく、まっすぐに自分の経験を通して投げかけてくれた。 その表情に温かみがあって、閉ざしているはずの英一郎の心の中に、バシバシと入ってきちゃうんです。 きっとこういう時間を、英一郎は父親と持ちたかったんでしょうね。 だから、子どものゆりかごを必死につくるマッサンの姿にジーンとくる感じがありました。
「英一郎は人の気持ちに敏感で、根本的に優しくて、愛に敏感な男」と、解釈する浅香さん。 「オレもこう見えてナイーブだし、優しいと思うし、この役が決まったときは、一緒にがんばろうな!って思いでした」。 そう素直に話す彼は、『マッサン』の現場では、誰からも愛されるマスコット的存在です。 特に、マッサン役の玉山さんと仲がよく、まるで兄のように慕う浅香さんの姿が印象的。 玉山さんのことを「心の友」と言い、オフにも玉山さんの仕事ぶりをわざわざスタジオに見に来るほど(!)なのです。 そんな彼に対して玉山さんは、「ちょっとうらやましい部分でもあるけど、航大のまわりには人が寄ってくるんですよね。 その理由はよく分からないけど(笑)、マッサンのモデルである竹鶴政孝さんもそういうところがあったと思うんですよ。 その人自身の素材、性格、生きざまで、きっと決まってくると思う。 だから……アイツをほめるのは腹立ちますよね、なんか(笑)」と、苦笑い。 でもやはりその目には、アニキの温かいまなざしがあるような……。 ドラマの中でも、英一郎が登場したことで、男としてさらにひとつ頼もしくなったように感じるマッサン。 いま、英一郎とともに夫婦の大きな壁に直面し、それをどうやって乗り越えるのか、見守りたいところです。
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