エーベルンハーン=玉川透
2015年6月18日09時11分
第2次世界大戦中のナチスの関連商品が、ドイツで高値で取引されている。ハーケンクロイツ(カギ十字)をあしらった勲章や総統ヒトラーの写真、親衛隊の鉄かぶと……。ナチスを宣伝することは法律で禁止されているが、違法すれすれの商法に規制当局も摘発に二の足を踏む。
ドイツ南西部の田舎町エーベルンハーンで4月半ば、一風変わった「のみの市」が開かれた。軍事関連の骨董(こっとう)品の即売会だ。
入場料8ユーロ(約1100円)を支払って町の公民館に入ると、かび臭いにおいが鼻をついた。商品を売るブースは90以上にのぼり、子連れも含め数百人の客が熱心に見入っていた。
ショーケースには、ハーケンクロイツをあしらった勲章や軍服、短剣、拳銃がずらりと並ぶ。ヒトラーやナチスの青少年組織の写真もたくさんあった。目をひいたのは、総統就任前の若きヒトラーの直筆サイン入りとされるブロマイド。3千ユーロ(約42万円)の高値をつけた業者は「古本を買ったら挟まっていたんだ」とうそぶいた。
どの商品も、ハーケンクロイツの部分にはシールが貼ってある。ヒトラーの写真や彫像も目の部分をシールで隠していた。その理由を別の業者にたずねると、「ドイツではナチスの品はおおっぴらには扱えない。なぜ、シールで隠しているかって? 分かるだろう」と笑った。
商品の多くはドイツの家庭で眠っていたり、戦勝国の兵士らが持ち帰ったりしたものだという。こうした市は隔月ペースでドイツ各地で開かれている。客の多くは「軍事マニア」のようだが、一獲千金を狙う業者も少なくないという。
ベルリン郊外に事務所を構える男性業者(43)は15年前、銀行を辞めてこの道に入った。短剣や軍服など毎月約300点、約5万ユーロ(約695万円)を売り上げると証言した。買い手の多くは30~40代。インターネットの普及で販路が急拡大し、今では海外が7割を占める。
「ドイツ人の若者も喜んで買っていく。格好良いから売れる。日本人もお得意様だよ」
■取り締まりに限界
ドイツでは戦後、ナチスによるユダヤ人らの大量虐殺(ホロコースト)を許した反省からナチスに関するものを使用し、公に広めることを厳しく禁じてきた。違反すれば刑法の民衆扇動罪に問われ、3年以下の自由刑か罰金が科される。
ナチス商品が公然と売買されていることは法に触れないのか。
ドイツ憲法擁護庁の広報官は朝日新聞の取材に「必ずしも合法とはいえない」としながらも、「具体的な事例によってナチスを公に広めるプロパガンダに当たるかどうか、判断するべき問題だ。通常、通報を受けて当局が捜査をすることになっている」と説明する。
専門家によれば、民衆扇動罪は「故意に公に広めようとする意思」があることが違法性の前提だ。プロパガンダの要素がないと判断されれば「違法性なし」と解釈されうる。
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