幽波紋使いは『平穏』に暮らしたい   作:珍捻
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そのⅦです。
投稿ペースが遅い、という意見が多々ありますが…残念ながら、私も時間がある限り必死に書いてはいるのですが、現状が精いっぱいなので…
投稿ペースはなるべく一週間毎以上開かないようには気を付けておきます。

この間、ランキングを見てみると5位にランクインしていてびっくりしました。
これからもよろしくお願いします。


Ⅶ.交錯

 週末、土曜日の朝、城島定春の住むアパートの一室の呼び鈴が鳴った。

「…誰だ?こんな朝早くに…」
 
 その時、完全に覚醒しきっていないまどろんだ意識の中、朝食を食べつつ新聞を読んでいた定春は、急いで加えていたパンを飲み込むと、室内用インターホンの画面をのぞき込む。

「…はい、城島です、どちら様で?」

 少々機嫌が悪そうだと思わせる声で応答する定春。若干不機嫌なのはお察しの通り、朝食の最中だというのに呼び鈴を鳴らされ、食事を中断せざる負えなくなったためだ。
 しかし、その直後にはそんなダルそうな定春の表情は一変する。

『…こんにちは、麻帆良学園の教員をやっています、葛葉刀子と言います。城島定春君、の御宅であってますか?』
「………」

 気の抜けた表情から、真剣な表情に変化する定春。

(これは完全に、アレだ、絶対に『魔法』の関係者じゃあないか?これは…なんてこった、あの4人の襲撃から2日たっても何のリアクションもなかったから、もしや見過ごされたか、と思ったが…
 …しかし、こうして応対してしまった以上、こちらも答えねばなるまい…大丈夫だ、この間の戦闘で僕の印象は”とりあえず”無害なことになっている…はずだ。だから、相手もそこまで強行策に出ることはあるまい…)
 
 頭の中で状況を整理しつつ、定春は応対を続ける。

「…ええ、あっていますが…何の御用でしょうか?」
『あなたに、大切なお話があってきました。少しお時間よろしいかしら?』
「その大切なお話の中身とは?申し訳ありませんが…葛葉先生でよかったでしょうか?僕は貴方との面識もありませんし…共学部の教員でもなかったと思いますが…その先生が、僕に何の御用でしょうか?」
『………』

 定春の言葉に、しばし沈黙が漂う。

『…貴方なら、すでにご存じでしょう?『魔法』について』
「!」

 しかし、刀子のその言葉を聞き、定春は眉を潜める。

「…何の『とぼけなくても、こっちはわかっていますよ?』…はぁ、人の話を遮るのはマナー違反ですよ?まあそれはさておき…まあ、魔法については知ってますよ。知ってしまった、と言ってもいいかもしれませんが…」
『…その件に関して、私たち『魔法使い』側の代表が、貴方と話を希望しています』
「話?」
『ええ…貴方自身について聞きたいことがある事と…この間の事件についての謝罪を』
「…これは驚いた。謝罪、ですか…」
『今回、こちらは貴方に対して失礼な事をしてしまいました…その謝罪をしたいと、私たちの代表が』
「………」

 しばし考える定春。

(…ジ・アザーズ、『アトゥム神』)

 そしてその直後、自身のスタンドを『アトゥム神』に変化させ、待機させた。
 このスタンドは直接的な攻撃力を持たない。が、相手との『勝負』で勝利した場合、その相手の魂を奪い取ることができる。そしてもう1つ強力な能力として、相手の思考を暴くことができる。「Yes」「No」形式のみでと言う制約があるが、相手の考えていることの真偽を確かめることができる、いわば嘘発見器。
 それを傍らに控えさせ、会話を続行する。

「…その言葉に、嘘偽りはありませんね?」
『ええ。心から謝罪の意をと思っています』
(Yes,Yes,Yes!!!)
「…う~ん、でもなあ、ちょっと不安ですねえ…」
『…貴方に危害を加えることは誓ってありません。約束します』
「…本当、ですか」
「ええ」
(Yes,Yes,Yes!!!)

(…『アトゥム神』の反応からしたら…少なからず”誠意を持った謝罪と対話”を希望していると…)

 相手の意図を確認し、考える定春。

 その時間、およそ8秒。

「…いいでしょう。少しお待ちを。支度をしますので」
『ありがとうございます』

 そう言って、定春はインターホンを切り、準備に取り掛かる。寝間着から制服に着替え、腰にホルスターを括り付け、その中にいろいろな物を突っ込んで行った。

(…とりあえず鉄球を2個ポケットに突っ込んでおくとするか。拳銃は…相手の警戒心を逆なでしてしまうからいけないな。まあ、基本的にスタンドを駆使すればどうにかなるだろうし、今回は相手と”話し合い”に行くのだ。無理に戦闘態勢を取ってしまうのもいけないだろう。後スマホと…鍵。財布は一応置いておく)

 そして準備が整った定春は、慎重に玄関を開けた。
 
「…失礼。お待たせしましたね」
「いえ、こちらこそ休日にすいません。ではこちらにどうぞ」
「わかりました」

 そう言って、案内されるままに定春は刀子についていく定春。

(…葛葉先生とか言ったか?中々に美人な先生だ。だが、なんというか…雰囲気が違う。なんかこう…一般人にはない”凄み”のような物をかすかに感じる。普通にしているようでも、その裏でこちらをじっくりと絡みつくような目で見ているような感じ…ひとたび近づけば切り裂かれそうな雰囲気。こういったことが直感で感じられるようになるとは…これもスタンドの影響か?精神のエネルギーを敏感に感じ取れるようになったのやもしれん。
 気を引き締めてかかったほうがいいか…)

「こちらにどうぞ」
「…ああ、どうも」

 そう言われ、定春はアパートから出た入り口に控えていたリムジンに乗せらせる。腰を掛け、刀子も車に乗り込んだ時点で、車はゆっくりと出発し始めた。

「休日に申し訳ありませんね、城島君。でも、こちらとしては大変重要な事なので…」
「構いませんよ…で、具体的にはどんなお話をするつもりで?」
「どんな、ですか…まずこちらの貴方に対する行動の謝罪、そして…これからの貴方についての我々の処置を、と考えています」
「…わかりました」

 揺られる車内の中、定春は刀子の方を向きつつ、返事をする。

「…ああそれと、一つだけ言っておきます…”過度な期待はしない方がいい”」
「?」
「貴方達は僕の事をいろいろと聞きたいようですが…僕自身、さして特別な存在じゃあないんですよ…貴方達が思っているような大層な存在じゃあない。僕の事を聞いて、拍子抜けしないようにあらかじめ言っておきます」
「…そうですか…」
「そうですよ」

 そう言いながら、定春は窓の外の景色に目線を向けた。

(…一応相手に謝罪の意があることはわかったが…それでも、やはり僕自身の情報を欲しがる思考のほうが優先だったか…ま、仕方がないか。
 しかし、ここからは正念場だな…相手がどんな質問をしてくるのか、どういった行動で対処してくるのか、その場合僕自身どうするのか…あらかじめ予想をたてて置くとするか)
 
 そう思いつつ、定春は頭の中で綿密なシミュレーションを開始する。これから相手がこっちに向けてくるであろう質問の予想を立て、それに対する差支えない答えを用意しておく。
 城島定春という個人は、基本的に慎重派である。行動を起こす前の準備をおろそかにはしない。綿密な計画と、それが破綻した時の修正路を必ず確保しておく。そうしたほうが、定春自身が精神的に『落ち着く』のだ。
 ある種臆病ともいえる性質。しかし、これが彼の”『平穏』に生きる”という本質そのものなのだ。

 ともあれ、定春はいよいよ敵の本拠地に向かっていく。

 その拳は、ほんの少し強く握りしめられているのだった。

 side out





 定春side

 なんだかんだで、僕は今、魔法使いたちの本拠地に向かっていた。
 正直に言うと、この行動は”賭け”である。本当ならこのまま無干渉でいたいが…それは恐らく無理な相談であろう。2日の間は何も干渉してこないと思ったら、休日と言うタイミングを見計らって接触してきたし…もしこれで相手の誘いを蹴っていれば、これからもしつこく付きまとわれるのは明白だ。

 なら、一度でいい、交渉のテーブルに立てばいいのだ。

 

 今回の会談は、僕の今後の人生を大きく決めるものと言って過言ではないだろう。魔法使いと言うよくわからない人種とは、これから否応が無しにも付き合っていかねばならなくなるのは恐らく確定事項。今日までの流れ(・・)を考えるに、あの駄神は僕を物語に介入させようと色々と運命をいじくってきている可能性も否定できない。ここまで立て続けて僕に『原作』に関係するであろうトラブルが舞い込んでくるのを、只の”偶然”と割り切れるほど僕は楽観的ではない。あの駄神、腐っても神ということか。
 という事は、僕自身『原作』というこの世界の”流れ”に逆らって過ごすことはできないのだろう。今まで『原作』から遠ざかろうとすればするほどに、かえって厄介事が増えて言っているのは明確。
 
 なら、どうするか。

 逆に考えろ。
『原作に関わってもいい』と考えるんだ。
 最低限、本当に最低限に、傍観者として『原作』と関わっていく。無理に関わるまいとするのではなく、『原作』と関りつつも、自分自身になるべく厄介事がやってこないようにすればいいんだ。
 下手に反発すればそれだけ大きなしっぺ返しが来てしまう。ならば逆らわない。”激流に身を任せ同化する”如く、のらりくらりと『原作』に流されながら捌いていけば…この嫌な流れ(・・)はどうにかできるかもしれないのだ。
 一番の理想形は、魔法使いとは”無干渉”でいる事だ。こちらはそちらに手を出さない。その替わりに、あちらもこちらに手を出さない。これを約束させればいい。これがうまくいけばいいのだが…はっきり言って不可能に近い。あちらからしたら、僕自身は完全な”イレギュラー因子”なのだ。組織や集団と言う物は”イレギュラー”を嫌う。これは生物の本能だ。自分たちの理解できない存在を忌み嫌う、恐れる、妬む、蔑む…特に僕は日本人だからそういった感情をよく知っている。村八分とかがいい例だろう。あの独特の考え方、日本人は内向的で集団意識がかなり高いために、自分と違った存在を遠ざけようとする思いが強いのだ。だから日本じゃイジメ問題が深刻化して…
 話がそれた。
 まあとにかく、あっちは僕と言うイレギュラーをどうにか処理しようとするだろう。完全に無視してくれるなら万々歳、わかり合おうとするなら合格点、排除しようとすれば不合格。最悪の場合消そうとするか…それはさすがにないと思いたい。
 
 とにもかくにも、ここは正念場だ。
  
 満点でなくてもいいのだ。テストで言えば、100点を取らなくてもいい。70~80点ラインを狙って、最悪赤点だけは回避する。その心構えだ。最低限僕は、魔法使いと言う『原作』において重要な立ち位置を持っているであろう集団と、対立することなく、かつ深くかかわらず…絶妙な立ち位置を作り上げることが重要なのだ。

(やらねばなるまい。僕のちっぽけな頭でどこまでやれるかは疑問だが…僕はやらねばならない…それが、僕の『平穏』への活路…ッ!
 気を引き締めて掛かれ、城島定春…今この場だけ…今この場だけは、1つのミスも許されない。いつもの本の作者の名前を間違えて覚えて本を探すのに苦労したり、読書に没頭する余りに時間を忘れたりするような、チンケな失敗すら許されはしない…慎重に、今までにないくらい慎重に、石橋を叩き壊すくらいに叩いて渡るように慎重に行動しろ…
 この一時だけは…僕は誰よりも聡明で、冷静な人間でなければならないのだ…ッ!)

 気を引き締めてかかかりつつ、僕はその焦りを表面に出さないように行動する。
 
 薄らとにじむ手汗を感じつつ、僕は車の中で静かに座っていた。



 で、その後約30分ほどで着いたわけだが…

「…すいません、1つ質問をよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」

「なぜに女子学部エリアに?」
「………」

 そう、なぜか、なぜか車は女子学部(女生徒のみが通う女学校の集合したエリア)の、しかも女子中等部校舎の前に止まったのだ。

「…私達の組織のトップは、この麻帆良学園の学園長として知られている人物なのですが…その学園長室が、この校舎の中にありまして…はぁ」
「あ、ああ…」

 僕は彼女の態度を見ていろいろと察した。何だ、学園長とやら、貴方は助平爺か?なぜに学園のトップが女子中等部に自身の執務室を構えた?女子中等部と言う当たり、若干のロリコン癖も否定できんぞ?なんだ、ちょっと実りかけた未熟な果実が好みか?ええ?

「…まあ、とりあえず行きましょうか…心中お察しします」
「…ありがとうございますね…城島君」

 そんなことを思いつつ、がっくりと肩を落とした先生の後ろを、ため息をつきながら歩く僕。この人、相当苦労しているな。それほどにこの人たちのトップと言うのはおかしい人間なのだろうか?思うに好々爺なのだろうが…ああ、今日も読書は無理か…
 ともあれ、重い足取りで僕は歩いていくのだった。

 そしてしばらく歩いていくこと約5分。

「…つきました。ここが学園長室です」
「ありがとうございます」
「いえ…失礼します学園長、城島定春君を連れてきました」

 葛葉先生がノックをし、ゆっくりと扉を開ける。
 敵の本拠地に単身で乗り込む。話し合いと言う裏に何があるかわからない不安を轢き潰し、僕は一歩一歩歩みを進める。『アトゥム神』も、スタンド像が相手に見えない程度に小さくして、なおかつ服の中に控えさせておく。
 目標は定めた。そのための活路もできる限り作った。人事は尽くした。

 さあ、ゲームの始まりだ。





「フォフォフォ。ご苦労じゃったの、葛葉先生。して、城島定春君。初めまして、かの?入学式の時に顔だけは見たかもしれんが、改めて。
 ワシが麻帆良学園の学園長、近衛近右衛門じゃ」
「………」

 あ…ありのまま僕が見たことを話そう。
『僕は学園長の前で話を聞いていると思ったら、目の前にはぬらりひょんが鎮座していた』。
 な…何を言っているのかわからないとは思う。
 僕も何が何だかわからなかった…
 頭がどうにかなったのかと思った…学園長の頭はどうにかなっているが…
 妖怪だとかUMAだとか、あの存在はそんなチャチなもんじゃあ断じてない。
 もっと恐ろしいものを目の前にしている気がする…

「………」
「?どうかしたかね、城島君」
「…いえ、なんでもありません」
「ほっほっほ。そうかの。ああ、そしてすまないのぅ、週末に呼び出してしまってのぅ」

 あ、危ない…出鼻をくじかれるかと思った…ひとまずは持ち直せたが…何という精神攻撃をしょっぱなからかましてくるか…ドラゴンクエストでいきなりミミックにザラキを使われた時の気分だ…魔法使い、侮りがたし。これは僕の予想を完全に上回ってきた…

「…さて、まずは。このたびは、手荒な行動をした者がいてすまなかったのぅ…ワシとしてもこの事態は非常に申し訳なく思っている。言い訳に聞こえるかもしれんが…今この学園はちょいと重要な案件を抱えている最中での?それにあたって、侵入者にはいつも以上に敏感になっていての…
 本当にすまなかった。この近衛近右衛門、関東魔法協会を代表して、君に謝罪しよう」
「…いえ。今回は僕自身に特に怪我もありませんでしたし、今後このようなことがないように努めていただきたい。それだけですよ。僕自身としては、謝罪の意を受け取れただけで十分です。本当に、今後、このようなことがないように、ね?」
「わかった。深く反省し、対処する…では、そこに掛けなさい。手短にすませよう」
(Yes,Yes,Yes!!!)
「ええ。ありがとうございます」

 そう言って、僕は学園長の目の前に置かれた椅子に腰かける。ふむ、第一印象としては、この学園長は中々に常識的な思考を持っている…と思う。見た目が常識的でない上に、仮にも一組織のトップなのだ、こういった交渉の場は得意分野だろう。あれが本当の姿かどうかは疑問だ。

「…では、早速…ワシとしてはこちらが本題となろうの…
 君は一体、何者なのじゃね?」
「………」

 きたか。
 だが、この問いに対する僕の答えは決まっている。
 単純だ。自然体で、真摯に、こう答えればいい事。


「…僕は城島定春。それだけですよ。ただの、どこにでも良そうな、さえない一般人です」
 
 これだけだ。
 
「…こちらとしては、そういう事を聞きたいんじゃないんじゃが…」
「とは言いましても…僕自身、貴方達のような組織に所属しているわけでもないのですよ。まぁ…聞きたいのはむしろこっちですか?
 僕は、超能力者、です」
『!?』

 学園長の表情が驚愕に染まった。これも予想済み。

「超能力…とな?」
Exactry(その通りでございます)。PSI、ESP、PK…まあいろいろ名称はあるでしょうが…僕はその超能力者、と言われる人間です」
「ふむ…にわかには信じられんのぉ…」
「貴方達が言えるセリフじゃあないでしょう。僕としては、魔法使いが実在し、なおかつ学園都市1つを牛耳るほどの力を持っている徒党を組んでいた、という事の方がよっぽど衝撃ですよ」
「…フォフォ、それもそうじゃの」

 向こうはあくまでも冷静だ。僕も冷静だ。

「とまあ、超能力を持っている…という事を除けば、僕はただのどこにでもいる高校1年生ですよ。超能力を持っているだけ、それだけの、後はどこにでもいる高校生となんら変わりない存在です。
 そのことについてはご存じでは?」

 そう言って、僕は学園長の方を向く。
 相手は考えるそぶりをしながら、こちらを見る。

「…ふむ、確かに報告通り、無害な存在であるという認識で間違いはないかもしれんのぅ…」
「…しかし学園長、彼をそのまま放置するのは問題では…」

 おいおい。葛葉先生…

「失礼な。僕が犯罪を犯す人間に思えますか。超能力を持っているというだけでそんな風に思わないでいただきたい」
「フォフォフォ。城島君、君を危険視しているからという意味ではなくてじゃな…いや、ある意味でそういう見方の話かの?」
「不安様子があるのはわかります。貴方達からしたら、得体のしれない超能力という存在を危惧するのは、本能的な行動なのでしょう。魔法使いが超能力者を恐れる、と言うのもなんかおかしい話ではありますが…ま、自分たちの理解が及ばない、かつ強力な力を持っている可能性を秘めた相手を野放しにしておきたくないというのはわからなくもありません」

 そう言って、なおかつ僕は言葉を繋げる。

「しかし、言わせていただきたい。そもそも、僕自身もこの事を言うためにこの場に来たのですから。
 僕としては、貴方達『魔法使い』とは、極力無関係でいたい。僕から貴方達に干渉することは決してないことを約束する代わりに、貴方達も僕に干渉することがないようにお願いしたいのです」

 僕の言葉に、学園長の表情はまた驚きに染まった。

「貴方達としては、僕と言う存在が危険か否か、自分たちに不利益な存在か否かを見極めたかったのではないでしょうか?そうと言うなら僕ははっきりと言いましょう。『貴方達に危害を与えることはありません』。僕としてはこの学校生活をただ『平穏』に過ごしたいだけですので。無用なトラブルを起こそうとは思っていません」

 そう、ただ冷静に返す。

「…ふむ…それが君の意志、というわけかの…?」
「意志、という大層な物でもありません。ただトラブルが嫌いなだけです。僕が言いたいのはそれだけですが…何か他にありますか?」

 僕が言いたいのはこれだけだ。
 しかし、相手がこれだけで僕のことを放っておいてくれるかと聞けば…それは非常に微妙なところだ。さて、相手はどう出てくるのか…

「…ふむ、ワシの意見としては…城島君、君とは”協力関係”を結びたいと思っているのじゃが…」

 ………

「…城島君、君の意見とワシらの意見に基本的に相違はない。お互いに”協力関係”を結びたいと思っている。どうかね」

 あちらはニヤリとした表情でこちらを見る。
 ならば、僕はこういうほかあるまい。この言葉しか、相手に投げ掛ける言葉はあるまい。
 僕は口角を釣り上げながら、息を吸い、相手をしっかりと見つめて





「…お断りします」





 そう言った。

「!」
「…な、なんと…?」
「貴方の提案である”協力関係”というのに、僕は反対です。最初に言った通り、僕は貴方達とは”無干渉”でいたい…関わりがあったとしても、最小限でとどめておきたい…”無干渉”と”協力関係”ではまるで意味が違うのですよ…
 ”協力関係”の場合、貴方達が危機に陥った場合僕が手を貸す必要があり、逆もしかりです。”無干渉”の場合、貴方達が危機に陥っても僕が手を貸す必要はなく、逆もしかりです。互いに”利と損を分け合う”関係と”利も損も分け合わない関係”は、結果的には利益も損失がないという所で合致していてもその過程で大きな差がでる。そして貴方達が僕に提案したのは”協力関係”で、僕の希望は”無関係”。互いの意見があっていないんですよ。それなのに、Yesと言えるわけがないんです」
「………」

 僕は淡々とそう説明する。それに対して僕の言葉に否定もせずただ黙って聞いているということは、相手は図星を突かれたという事だ。
 相手の提示は協力関係、つまり僕の”力”を利用したいと考えていると見た。超能力と言う未知の力を手中に収めることで安全性を確固たるものにし、そのうえでその未知の力を自分たちの力にしたいという魂胆が見え見えだ。相手が危険であるというのなら、”無干渉”という関係でもいいはずなのだ。それをあえて”協力関係”と言い換えて提示したのは、こういった意図があっての事だろう。

「…協力する気は、ない、と?」
「言ったでしょう?”無干渉”でいきましょう、と。僕としてはそれが好ましいんです。貴方達に敵対はしない。そのかわりに協力して力を貸すこともない…これでいいじゃないですか。貴方達には何の損失もないのですから。
 いかがでしょう、僕と貴方達は”無干渉”でいる。これに異論はありますか?」

 そう言って、僕は学園長の目をじっと見る。学園長は黙ったままだ。
 この学園長、存外に欲深い存在なのやもしれない。なんだ、そんなにスタンドの力が欲しいのか?それとも、僕の言葉が信じられないのか?
 なんにせよ…僕を魔法使いの陣営の”協力者”にしたいという意図は見えた。しかし、これでは僕の理想には程遠い。『落第点』だ。

「…ワシとしては…」
「僕の力を手にしたいと?魔法とは異なるこの力を、我が物にしたいと?」
「………」
「なら、どういうことで?なぜ”無干渉”でなく、”協力関係”を望むのか、その心はなんでしょうか」

 相手は渋い顔をする。

「…城島君、君は、自分の力をどう思う?君の立場は今、どうなっていると思う?」
「…立場…ただの高校生ですよ」
「…そうじゃな、それが、それが問題なのじゃ」
「…なんですって?」
「君はただの高校生じゃ。正式な麻帆良の一員ではあるが、それも生徒と言う枠組みじゃな。
 しかし、君にはその超能力とやら、魔法以外の強大な力を持っている。現に、報告では魔法先生4人を相手にして巧妙に立ち回ったとか。それだけの力量を持っている。それが問題なのじゃ。
 ワシとしても、君が望む”無干渉”でいられたならそれでいいとは思うのじゃが、あいにくそうとはいえなくてのぅ…」

 そう言って、学園長はため息をつく。

「…ワシらは『関東魔法協会』としてまとまった集団じゃ。しかし、それはとある集団の下部組織にすぎない。そしてその上層に位置する集団が」

「…メガロメセンブリア、通称MM…」

『!?』

 学園長の顔に緊張が走る。

「…知っておるのかの?」
「…失礼ながら、貴方達の事を少しだけ調べさせてもらいました。貴方達の組織の構造の事、そして貴方達の上層組織が、『別の世界』にあるという衝撃の事実、貴方達が魔法を隠蔽するためにこの学園に仕込んだ仕組みの数々…そこまで深くはありませんが、ある程度の情報を集められましたよ」
「…どうやって…」
「失礼ながら先日、僕を襲ってきた4人の記憶をのぞかせてもらいました。貴方達の情報はあったほうがいいと思いまして」

 そう言うと、納得したかのように学園長はうなずいた。

「把握しているなら話しやすい…そうじゃな。ワシらは学園全体に『認識阻害魔法』を張り巡らせ、そのうえで魔法を認知した存在の記憶を改ざんするなどの処置をしてでも、魔法を隠し通してきた」
「魔法の悪用を恐れて…それ以外にも意図があるようですがね…」
「…否定は、できんのぅ…」
(Yes,Yes,Yes!!!)

 認識阻害魔法。その名の通り、『対象の認識を改ざんする魔法』である。固定概念や常識観念を書き換えることによって、『異常』を『正常』に書き換えてしまう魔法、らしい。何と恐ろしい物だろうか。
 今思えば、僕自身の行動…少々おかしいところがあった。あの幼女や少年と会った時など、『魔術師の赤』を使った事や、わざわざあいつらとベラベラとしゃべった事…本当に逃げたいのなら、問答無用で逃げ出せばよかったのだ。ある種挑発的とも言えなくもない会話など必要もなかった。幼女に襲われてからという物、本当にトラブルを回避したかったのなら、図書館にもいくことなく家に真っ先に帰ったはずだ。学校にも図書館はあるのだ。借りて家で帰るなどの手もあった。そう言った行動の変化…これもその影響だとしたら…
 このことに気が付いたのも、スマホで撮影した情報を見て『認識阻害魔法』の存在を知った時だ。あの時は思わずゾッとした。いつの間にか、僕の頭を書き換えられていたに等しいのだから…

「…そういった時に、君は魔法を知った。そして、記憶を改ざんされる前に、君が超能力者であるという事をワシらを含めた魔法関係者たちは知ったのじゃ…このことは本国にも情報がわたっているじゃろう…そして、本国の連中からしたら…君は危険因子としてみなされてしまうじゃろうな…」
「ッなぜ!」

 僕は学園長の言葉を聞き、思わず勢いよく立ち上がった。

「…すまん…本当にすまない…ワシらと違い、魔法世界の魔法使いたちは”魔法第一主義”のような思考で固まっておる。彼らの”魔法”以外の力ある存在を、彼らは良しとしないのじゃ…こればかりは考え方が根本から違うからの…君は、西にある『関西呪術協会』と『魔法使い』が仲たがいしているのは知っておるかの?」
「…一応は…」
「それも、元はそう言った思想を持った『魔法使い』と『関西の術士』の衝突が原因での…君のその力も、彼らからしたら未知の力で、忌み嫌われ排斥される対象という事じゃ…
 認識阻害も、ある種でそう言った魔法世界の意図の下で作られておっての…」
「だ…だからと言って…何も間違いを犯していない個人を、何の理由もなくただ”危険かもしれない”という理由だけで排斥することは、人間としてありえない!あってはならないのでは!?」

 思わず言葉に力がこもった。

「…すまん、本来はそのとおりであるはずなのじゃ…じゃが…人は時に愚かであるのじゃよ。理不尽なことがこの世には溢れておる、やってはならぬことも平気でやる輩もおる、過去人間の歴史の中には、その理不尽のせいで多くの命が失われたこともある。
 城島君…君自身に罪はない。しかし、彼らからすれば、君は危険を生みかねない危うい存在なのじゃ。それだけで、魔法使いたちにとっては排除の対象ともなる…」
「…そこまで、僕の存在は…」
「…ワシは魔法使いである以前に、教育者じゃ。生徒を危険にさらさせようとは思わぬ。しかし、超能力と言うこちらからしたら未知の力を持った君を、上層は見逃さんじゃろう…排除しようと画策するやもしれぬ。それを避けるためには…君をワシらの”協力者”という立場にするのが一番なのじゃ…」
「…そう、ですか…」

 項垂れながら、僕は椅子に座り直す。

「…タイミングが悪かったのもある…あった事があるじゃろう?ネギ君には」
「ネギ…ああ、あの時の」
「ネギ君は、ワシら魔法使いからしたら、非常に重要な立ち位置にいる存在なのじゃ。まあ、そこはおいおい話すとしよう。とにかく、君が彼に接触したことも上層を刺激する要因となったと言うわけじゃ…
 城島君、君の意見はよくわかった。ワシとしても君に極力迷惑はかけないように善処する…だから、ワシら『関東魔法協会』の協力者として、君にはいてもらいたい…どうじゃね?」
「………」

 僕は小さくため息をついた。
 学園長、彼の提案は良い。僕の『平穏』のあり方にも反発しない。
 4人の情報から、魔法使い達の世界があることも、そしてそれ等がこの日本の魔法使いたちの上層に立つ存在だということもわかっていた。しかし…何の理由もなく、彼らに危険認定されるとは…そこまで『魔法世界』に存在する魔法使いたちは…

 もうどうにもならない…『魔法使い』とかかわりを持たねば、次々に新たな厄介事が舞い込んでしまうのがわかってしまった…『魔法』に関わらず、『平穏』を目指すことができない…

『君は選ばれたんだ!』

 あの駄神の声が、頭の中に響いてくる。こうなったのも、お前のせいか…!
 怒りが収まらない…しかし、ぶつける先もない。
 僕はこの『原作』が終わるまで…『平穏』に過ごすことができないのか…何年先になるかわからない『完結』まで、僕はこの常識外れな世界の中で生きていかねばならないのか…
 今この学園長の提案を断れば…僕は常に危険にさらされる。僕を守れる存在はいないことになる。

 僕は息をゆっくり吸い込む。どうしようもない感情を心の内に押し込め、口を開く。


「…よろしくお願いします。学園長」
「…ああ、任せなさい城島君。ワシが君の安全は必ず確保する」
「…その言葉、信じても?」
「…ああ、約束しよう」
(Yes,Yes,Yes!!!)


 こう言うしか、僕に道は残されていなかったのだ。
 …落第点だな、この結果は。そう思いながら、僕の心は悔しさで埋まっていった。

 
 side out





 三人称side

「よかったのですか、学園長」
「よかった、とは?」
「城島君を『関東魔法協会』の”協力者”とする、これは学園長の独断に近い判断です。上層にも、周囲の魔法先生にも何も相談もせず…」
「…よかったのじゃよ、葛葉先生」

 学園長はそう言って、表情を曇らせた。あれから話し合いは終わり、詳しいことはまた明日にという事で、定春は家に帰させている。今学園長室にいるのは学園長と葛葉のみだ。

「魔法先生の中にも、MMから派遣された人間が多くいる。彼からかしたら、まず間違いなく彼の存在を否定しにかかるじゃろう…」
「…」
「ワシは『関東魔法協会』の長であると同時に、『麻帆良学園の学園長』という教育者じゃ。長という立場からしたら、彼の処遇を決めるには彼らの意見は必要じゃ。しかし…教育者という立場なら、麻帆良の正式な生徒であり、一員たる彼を蔑ろにはしてはならん。生徒を守るのは教育者の務めじゃ」
「…そう、ですね…」
「…彼自身、只の学生として過ごしたかったじゃろう。聞けば、読書が好きで人当たりもよい好青年だそうじゃ。超能力を持っているという特別な点を取り除けば、普通の高校生と何ら変わりない。普通に過ごしてきただけの青年じゃ。それが、こちらの勝手な思想でその日常を崩されてしまうなど、本来はあってはならんとは思わんかね?」
「…その通り、でしょうね、本来ならば…」
「それを許さないというのが、今の魔法世界の思想なのやもしれんの…あの時彼を監視し見極めるように指示した彼ら4人も、監視と言う枠を超えて、話も聞かずに襲い掛かったと聞く。彼が相応の力を持っていたから誰も(・・)傷つかなかったからよかったものの…」

 学園長の顔は暗い。葛葉もその表情を見て、小さくため息をつく。

「…明日、改めて私たちの中で彼を紹介し、一員とする手はずでいいですね?」
「…お願いできますかの?」
「わかりました。手配しておきましょう」
「すまんの。本来は君のする仕事ではないのじゃが…この学園に今いる中で彼の立場に対して最も理解があると思ったのが君であったからの…」
「構いません。では」
「うむ」

 そう言って、葛葉は部屋を出ていった。

 学園長室に残ったのは、学園長ただ一人。
 その顔に浮かんだ表情には

「…そうじゃ、彼は、奴らの好きにはさせてはならんのぅ。フォフォフォ」

 薄らと”笑み”が浮かんでいるのだった。

 
 



登場スタンド

『アトゥム神』
登場は第3部「スターダストクルセイダース」
能力は、相手の心をYes,No方式で読み解くことと、『賭け事』をして相手に勝利する、また”負けた”と思わせることで相手の魂を奪う。
相手の心の隙を突くことで、手首の身を相手に憑依させるなども可能。

合計14/(181+1)

と言うわけでⅦでした。
学園長は悪っぽくはなりませんでした。なんか、学園長まで悪だったら主人公があまりにも救われない…というかこのままだと主人公そのものが悪になりかねない…
よく狸親父とか悪の首領とか言われますけどね…一応教育者のトップなら道徳心もあるんじゃないですかね?と思って………ええ、悪ではないです。