社説:福島の避難者 切り捨てぬよう支援を

毎日新聞 2015年06月18日 02時30分

 原発事故の被災者支援に区切りをつける動きが続いた。

 政府が福島の復興指針を改定し、「居住制限区域」と、「避難指示解除準備区域」の避難指示を2017年3月までに解除する目標を閣議決定した。両区域の住民への精神的損害の賠償も18年に一律終了する。

 一方、国から避難指示が出ていない地域から避難した自主避難者について、福島県は避難先の住宅の無償提供を17年3月で打ち切る。

 今回の決定で避難者たちは、帰還するか否かの選択を強く迫られる。

 避難者は、いつかは自らその決断をする必要がある。支援の期間に区切りがつくことで、再出発へ踏み出す住民もいるだろう。ただし、先が見通せない状況は今も深刻で、福島に戻るか決めあぐねている人も少なくあるまい。政府や福島県の結論は、避難住民と十分に対話を重ねて出したとは言い難い。決定が避難者の切り捨てにつながってはならない。

 原発事故による福島県内外への避難者は今も11万人を超える。

 政府や県は、帰還を促すが、被災地の生活環境やインフラの整備は遅れている。除染も順調とは言えない。放射線に対する避難住民の不安はいまだ大きい。

 川内村や田村市の一部で避難指示が解除されたが、住民の帰還は進んでいない。地域の産業や商圏の復活が容易ではないことを物語る。

 賠償をめぐっては、訴訟提起や原発ADR(裁判外紛争解決手続き)の申し立てが、多くの住民から今も相次ぐ。政府による放射能汚染の実態調査や、損害の全体像把握の取り組みが十分とは言えない中で、賠償指針が十分に機能していない。

 避難指示解除と賠償打ち切りをなぜ今セットで掲げるのか。住民を納得させる説明が必要だろう。対話を通じ、避難者が冷静に帰還か移住かを選択できる環境を整えてほしい。

 避難者の4人に1人、約2万5000人とされる自主避難者の置かれた状況は、政府指示の避難区域の避難者と比べて、なお厳しい。

 月額10万円の精神的損害の賠償はない。子ども連れで家族が分散して生活する例も多い。自主避難者も、原発事故がなければ通常の生活を送っていたはずだ。個人の責任に任せて済む話ではないだろう。

 住宅の無償提供が廃止されれば、生活の困窮につながる家庭も予想される。県は、低所得者への家賃補助など代替の支援策を打ち出したが、個別の事情に応じたきめ細かい対策をとるべきだ。

 12年に成立した「子ども・被災者生活支援法」が、自主避難者の選択の自由や住宅・就労支援などを打ち出した精神を忘れてはならない。

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