社説:安保転換を問う 存立事態の認定

毎日新聞 2015年06月18日 02時31分

 ◇首相に白紙委任できぬ

 安全保障関連法案について「違憲法案」との批判が高まるなか、安倍晋三首相と民主党の岡田克也代表らとの党首討論が開かれた。

 集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」を認定する判断基準について、首相は「政策的な中身をさらすことになる。そういうことを述べる海外のリーダーはほとんどいない」としか答えなかった。ことは関連法案の根幹に関わる問題だ。首相の態度は、国民に丁寧に説明する姿勢からはほど遠い。

 従来の政府の憲法解釈では、我が国に対する直接の武力攻撃があり、他に適当な手段がない場合、必要最小限度の範囲で、自衛権の発動としての武力の行使ができるとしてきた。これが個別的自衛権であり、日本が武力攻撃を受けた場合に行使できるという、明確な基準があった。

 一方、憲法解釈変更を反映させた関連法案では、他国への武力攻撃によって我が国の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある「存立危機事態」など新3要件を満たす場合に、集団的自衛権の行使が認められる。

 明白な危険があるという要件は、主観的で、最終的には政府判断にゆだねられる。武力行使の基準はこれまでと比べて曖昧になる。

 法案に対する国民の理解が深まらない一因には、そういう不明確な基準への不安があるように見える。だからこそ、政府は国会審議を通じて基準をより明確にし、わかりやすく説明する必要があるはずだ。作戦計画まで明らかにせよと求めているのではない。手の内をさらせないというレベルの話ではない。国民に具体的な基準やケースを示すべきだ。

 だが、首相はほとんど答えようとしなかった。これでは岡田氏が批判したように「時の内閣に武力行使の判断を丸投げしているのと一緒」であり、「白紙委任」に等しい。

 他にも首相答弁には疑問が多い。

 これまで首相は、集団的自衛権行使の例として、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海にこだわってきた。2月の国会答弁では明示した。

 だが、党首討論で、背景となる安全保障環境の変化について問われると、首相は機雷掃海は「典型例ではなく、海外派兵の例外」と説明を修正した。

 また憲法解釈変更に関連して、1959年の砂川事件最高裁判決が認めた「自衛のための措置」について「どこまで含まれるか、常に国際状況を見ながら判断しなければいけない」と解釈の再変更の可能性を示唆した。これでは憲法の規範性などなくなってしまう。やはり首相に白紙委任することはできない。

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