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<神戸児童連続殺傷>「加害者手記」書店、図書館が対応苦慮

毎日新聞 6月17日(水)22時37分配信

 神戸市で1997年に児童連続殺傷事件を起こした当時14歳の加害男性(32)の手記「絶歌(ぜっか)」が出版されて18日で1週間になる。売り切れる書店がある一方、遺族の心情に配慮して販売を見合わせる動きも出てきた。地元の図書館も対応に苦慮しており、兵庫県立図書館(同県明石市)は17日、手記は購入するが館外への貸し出しはしない方針を決めた。

 ◇兵庫県立図書館は館外貸し出しせず

 神戸市に本社があり、15道府県で38店舗を展開する「喜久屋書店」は、発売2日後の13日に販売を取りやめた。「遺族の許可を得ていなかったことが分かった。地元の関心は高いかもしれないが、遺族の気持ちをくみ取った」と話す。関東を中心に展開する「啓文堂書店」は、遺族の心情への配慮を理由に当初から販売していない。

 一方、神戸が発祥のジュンク堂書店は店頭で販売したが、三宮店では入荷した約200冊全てが完売した。担当者は「店で自主規制はしない。出版の是非はお客様に判断していただくのがポリシー」と説明する一方、「決して売りたい本ではない」と明かす。「なぜ売るのか」との抗議の電話も連日あるという。

 県立図書館は開架スペースに置かず、学術など利用目的を確認した上で、館内に限り閲覧を認める対応にした。同館は「県内で起きた社会的影響のある事件なので購入するが、遺族の人権や心情にも配慮し、図書館としての役割を果たしたいと考えた」と説明する。

 一方、神戸市立中央図書館(同市中央区)は近く対応を決める。1998年には加害男性の供述調書を掲載した月刊誌の閲覧を中止にしている。【神足俊輔、久野洋、石川貴教】

 ◇版元は出版継続方針

 手記の版元・太田出版(東京)は17日、自社のホームページに「『絶歌』の出版について」とする見解を掲載した。「少年犯罪発生の背景を理解することに役立つと確信している」と意義を強調し、今後も出版を続ける方針を明らかにした。

 同社の岡聡社長名で掲載。当時14歳だった加害男性(32)を「事件が起きるまでどこにでもいる普通の少年。紙一重の選択をことごとく誤り、前例のない猟奇的殺人者となってしまった」「根底には社会が抱える共通する問題点が潜んでいるはず」などと分析。「弁解の書ではない。猟奇殺人を再現したり、事件への興味をかき立てたりすることを目的にしたものではない」と説明している。

 被害者の土師(はせ)淳君(当時11歳)の父守さん(59)と代理人の弁護士は「遺族に重大な2次被害を与える」として回収を求める抗議文を太田出版に送っているが、同社は「出版の意義をご理解いただけるよう努力していくつもりです」と触れるにとどめた。【神足俊輔】

最終更新:6月17日(水)23時9分

毎日新聞