前代未聞の辞任要求は何を意味するのか。
22日、都内で開かれた日本ボクシングコミッション(JBC)の役員会で、試合運営の事実上の最高責任者、安河内剛事務局長に対し辞任が要求されたことは業界内を騒然とさせた。
試合を公平に運営するための第三者機関のトップが、他の誰でもない部下の役員たちから汚職を追及されたのだ。
同氏は過去、暴力団排除に積極的な姿勢を見せ、筆者の取材にも「恐れていては何も進まない」と語り、その毅然とした姿勢にはトップとしての頼もしさを感じたが、一方で業界内からは強い反感も聞かれた。
今回の役員会では、震災時に職務を放棄したことや愛人、横領疑惑などが追及されたが、話はそれだけではない。あるジム会長は「彼に気に入られないとランキングに入れなかったり、世界挑戦を後押ししてもらえない」と打ち明けていた。
それが事実であったかは分からないが、安河内氏と仲の悪かったジムが仲直りした途端に所属選手の世界挑戦が実現したり、安河内氏出身のジム選手が日本ランクにすら入っていないのに東洋王座の決定戦に出場できたり…という噂が業界内でささやかれてはいた。
JBC役員たちの不信感を高めたのは2007年のことだ。亀田兄弟の父、史郎氏が浦谷信彰レフェリーを恫喝した際、試合役員会が厳罰の要望書を提出したのだが、それは、トップである安河内氏がなぜか早々に処分しない方針を表明したことへの反発からだった。
多くの役員は純粋なボクシングへの愛情から決して高くはない報酬で仕事をしている。「あのときの悔しさは今も忘れない」と語る役員もいるほどだ。筆者の取材に長く「守秘義務がある」と全く口を開かなかったベテラン役員も、ついには「私も先は長くないからクビになる覚悟で」と内情を打ち明けた。
このスキャンダラスな事態は確かに業界の恥ではある。しかし、JBCは財団法人という公益的な機関でもある。大相撲では八百長問題が外部からのメール提供で表になったが、ボクシングでは今回、自ら疑惑を追及した自浄作用という見方もできる。
しかし、役員会では25日に結論を出すことで話はまとまったはずが、先送りになってしまった。それどころか「マスコミに漏らした犯人を見つけ出せ」と問題をすり替える関係者も出てくる始末。
大相撲と違って問題を自ら摘出できるのか、注目だ。(ジャーナリスト・片岡亮)