政府と東京電力が、福島第一原発の廃炉に向けた中長期ロードマップ(工程表)を2年ぶりに改訂した。1~3号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出し時期は、最大3年遅れとなる。「スピード重視からリスク低減を重視する方針に転換した」と政府や東電は説明する。

 出だしから遅れることになった従来の工程表は、見通しが甘かったと言わざるを得ない。

 果たして、最大3年遅れになると今、見通せるのか。また、今まで、リスク低減を重視してこなかったのは、なぜなのか。

 これまでの遅れから具体的な教訓を引き出し、政府や東電は、今後の長い廃炉工程に生かすべきである。

 プール内の核燃料は出来るだけ早く安全な場所に移さなければならない。その搬出が遅れるのは、準備段階のがれき撤去や作業フロアの除染に時間がかかっているためだ。

 一昨年秋、安倍首相は五輪の招致演説で「状況はコントロールされている」と言い切った。

 だが、この2年間ではっきりしたのは、状況はコントロールにはほど遠く、従来の工程表も高濃度、広範囲の放射能汚染などの現状を十分に踏まえた計画になっていなかったことだ。

 がれきを動かせば放射性物質が舞い、原発の敷地外にも飛散しかねない。除染が進まなければ作業員の被曝(ひばく)線量が増え、作業時間が限られる。

 従来の工程表は、炉内の溶けた燃料がどこにどれだけたまっているかわかっていないのに、1~3号機すべてで格納容器を水に満たす「冠水工法」で取り出すなどと決めてもいた。通常の取り出し方法に近い。

 だが、様々な方法で格納容器の状況を探ると止水や耐震での難しさがわかってきた。今回、冠水工法をいったん取り下げ、今後2年程度で取り出し方法を検討するとしたのは、当然だ。

 疑問なのは、「もっと幅広く検討すべきだ」という外部専門家の意見になかなか耳を貸さなかった姿勢である。

 膨大なタンク群にたまっていた高濃度汚染水は先月、東電が「処理完了」を発表した。しかし、毎日新たに生じる約300トンの高濃度汚染水から汚染物質を分離する作業は続く。除去しきれないトリチウム(三重水素)に汚染された水は依然、タンクにたまっていく。

 事故原発の廃炉は、日本では過去に例のない難事業である。現状を地元や国民に説明して廃炉作業そのものへの理解を得ながら、リスク低減を最優先として進めるべきである。