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【社説】

米首都で原爆展 「投下は誤り」伝えねば

 広島、長崎の被爆の実相を伝える展示会が米ワシントンで始まった。米国民の多くは原爆投下は不可避だったと言うが、人類の最も悲惨な出来事を伝える資料と正面から向き合ってほしい。

 展示は広島、長崎両市が企画しワシントンのアメリカン大学が協力、会場を提供した。首都での展示は一九九五年にも企画されたが、この時は米退役軍人らの反発で事実上、中止に追い込まれた。

 今回は二カ月間で、原爆の熱線で溶け、変形した懐中時計や十字架など二十五点が出展された。関心を集めているのが、画家の故丸木位里、俊夫妻が描いた連作絵画「原爆の図」の六点だ。

 鮮烈な赤で描かれた炎が、大人も子どもも包んでいく「火」。全身焼けただれた人たちが夢遊病者のように歩く「幽霊」。広島の収容所にいて被爆した「米兵捕虜の死」と、犠牲になった朝鮮人徴用工を描いた「からす」も出展された。原爆がもたらした惨状には民族など関係がなかった。

 原爆の図を見た米国人からは「大変動揺している。苦しむ人々の中に子どももいるのが衝撃だ」「米国政治の中心地で決めたことが世界にどういう影響を及ぼすか、よくわかった」などの声が聞かれたという。

 現在でも米国民の大半は「原爆投下が日本を降伏させて戦争終結を早め、さらに多くの犠牲者が出るのを防いだ」と言い、正当化する考えが根強い。米研究者には、日本を攻撃したが、戦後台頭するとみたソ連を核の威力で威嚇するのが大きな目的だったとの分析もある。ワシントンのスミソニアン博物館には、広島に原爆を投下した爆撃機「エノラ・ゲイ」が展示されているが、地上でどんなことが起きたのか説明はない。

 日本側の資料は、核兵器を国際政治の視点ではなく、人間の体と心を通して考えるべきだと訴えている。被爆直後だけで二十万人以上が死亡し、深刻な後遺症をもたらした原爆の投下は誤りだったと伝えたい。

 核廃絶の歩みは進まない。米、ロシアなど核保有国が核兵器を削減する「軍縮」、新たな保有国をつくらせない「不拡散」の論議はともに最近、目立った成果がない。

 一方、「核兵器禁止条約」の制定を目指す動きもあり、既に百七カ国が賛同している。日本政府は核の非人道性をめぐる議論に積極的に関与して、指導力を発揮する努力が求められる。

 

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