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 駐車場不足はサンフランシスコやその近郊一帯の共通した問題だ。大学のキャンパス内も例外ではない。ある日、カリフォルニア大バークリー校に取材に訪れて駐車場を探していると、ちょうど6台分、ずらりと空いているスポットがあった。こういう時は要注意。工事車両専用だったり、時間指定があったり。小さな標識に近づいて注意書きをよく読まないと、とんでもない罰金を取られることになる。ところが、ここには見落とすこともない大きな標識がついていた。

 「ノーベル賞受賞者専用駐車場」。

 冗談かと思い、思わず車を出て、よくよく眺めた。青い大きな標識には「ノーベル賞受賞者用の専用スペース。常時許可証が必要」などと書いてある。路上にはさらに白い大きな文字で「NL」(Nobel Laureateの略)と1台分ずつペイントまで。あまりに大きな標識に、「間違えました」「見落としました」などという言い訳などとうてい許されなさそうだ。

 私が通りかかった平日の昼過ぎには、7台分のうち、止まっていたのは紺のトヨタ・カローラ1台だけだった。バークリーには、いったい何人のノーベル賞受賞者がいるのか。「我が校にはこんなにノーベル賞受賞者がいるんですよ」というアピールとしてはなかなかユーモアあるやり方にも見える。

 いつから、バークリーにこんな駐車場ができたのか。気になって、後日、大学の駐車・交通部に連絡をして訪ねてみた。部長のシームス・ウィルモさんがあらかじめ調べてくれていた。「きっかけは、1980年に文学賞を受賞したチェスワフ・ミウォシュ教授が、『ノーベル財団は賞金をくれるけれど、大学は何をくれるのかね』と冗談交じりに言ったことだったようです」。

 そこで、大学は、専用の駐車場を1台分プレゼントすることにした。「バークリーの駐車場不足は80年代にはすでに深刻な状況になっていた。あのスポットは見せ物ではなく、本当に必要とされていたんです」とウィルモさん。

 車を識別するために、車のミラーに引っ掛ける「ノーベル賞受賞者駐車証」が作られた。ただ、この駐車証を最初に手にしたのは、言い出したミローズ教授ではなく、その3年後に経済学賞を受賞したジェラルド・デブロー教授だったという。大学がこの制度を作ったのはミローズ教授の「一言」から数年後だったため、直近の受賞者にまず渡したらしい。 3人目は、1994年、ゲーム理論を経済学にもたらした数学者のジョン・ナッシュ氏と経済学賞を共同受賞したジョン・ハーサニー教授だった。