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 かっこいい日本、「クールジャパン」を海外に売り込もう。そんな動きの一方、日本のここがすごいという外国人のほめ言葉がよく伝えられる昨今。少し、熱くほめられすぎてないか?

■肯定ばかり、だから安心:武田砂鉄さん(ライター・編集者)

 テレビ番組で、日本のラーメン屋の行列を「美しく冷静に行列に並ぶことができるのは日本人だけ。規律正しい国民だ」と外国人のキャスターにリポートさせていた。併せて流した映像は裕福ではなさそうなインド人がバケツを持って並ぶ姿。そこまでして「日本」をたたえますか。

 僕も日本は好きです。しかし、何でもかんでも日本を褒めがちな風潮は気持ち悪い。外と比較し、外を下げて、自分たちを持ち上げる。「日本アゲ」ですね。欧州の先進国でも電車の発車時刻は遅れて当たり前なのに「定刻発車できる日本はすごい」とか。

 1998年から3年半、「ここがヘンだよ日本人」という番組がありました。世界から見ると日本人はこんなにおかしく見えるよと、それを面白がり、笑いのめす度量があった。今なら「自虐的だ」と叱られるのでしょうか。「世界の日本人ジョーク集」が売れたのは約10年前。自分たちを笑う余裕がありました。

 書店の店頭で目立つ、日本を褒める本は三本柱です。ただただ称賛する本、中国や韓国をけなす本、「昔の日本人と比べ今はだらしない」と叱る説教調の本。嫌中・嫌韓本はヘイトスピーチの社会問題化などで失速気味。その分を「褒め本」が埋めています。

 三本柱の購読層は重なり、中心となるのはいずれも50代以上の男女。中韓への鬱憤(うっぷん)を日本アゲで埋める構図です。ひと昔前までは「日本の方が上」と余裕で感じていられた状況が、中韓の経済規模拡大で変わった。日本褒めは、プライドが崩れた中高年を優しく慰め、安心材料を提供しているともいえます。

 安心の作り方も粗雑です。ある本は「日本を褒める」本文の多くが、ネットに投稿された外国人の日本を称賛する書き込み。一面的なところがウケる。物事には否定的な見方も肯定的な見方もあるはずなのに肯定以外は切り捨てる。それを繰り返し「日本はやっぱり素晴らしい」「まだ大丈夫だ」と安心する。

 現状を精緻(せいち)に分析し、解決策をあれこれ探る難しい本よりも、風邪薬の効能書きの「熱が出たらこの薬」みたいに、「不安になったら日本アゲを読め」という図式が出来上がっているのでしょう。

 もう一つ気になるのは、行列や定刻発車という個別事例がいきなり「日本という国」「日本人」という「大きめの主語」に昇華してしまうこと。理解に苦しみます。行列に整然と並ぶ姿が、なぜ「日本人はすごい」に直結するのか。

 「せっかく褒められて気持ちよくなっているのに、気の利かない野郎だ」と思われようとも、その都度立ち止まってぐずぐずと考え続ける以外にないと思う。さもないと、いつしか「大きめの主語」に取り込まれ、翻弄(ほんろう)されてしまいます。

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 82年生まれ。出版社勤務を経て昨年独立。「紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす」を今年4月に出版。

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■親切で安全、実際いい国:パトリック・ハーランさん(タレント)

 来日して22年になります。数年前まで「日本てダメだよね。そう思わない?」と短所を挙げて同意を求められることが多かった。指摘してほしいというお願いも多かった。

 「日本語が難しいから国際化ができない」「日本人は創造性がなく物まねばかり」「ネクラでしょう?」。マイナス思考に陥ってしまった日本人が、マイナス面を裏打ちしてくれる情報を欲しがっているのかな、こんなにいい国に住んでいるのに、なぜコンプレックスを持つんだろうと、すごく不思議でした。

 僕は日本人の明るくよく笑う国民性が好きです。意外かもしれないけど、ネクラでもない。大体は優しく親切で丁寧だし、自分からは動かないけど「困ってる」と助けを求める人は必ず助ける。日本人のよさ、だと思いますね。

 日本がいい国、誇るべき国なのは間違いないですよ。アメリカでは、もう20年前には「働き過ぎ」以外、かっこいい国だと思われていたんじゃないかなあ。物事がきちんと処理される国だし、お尻が洗える便座をつくってしまうとか、発想力が豊か。何より安全です。

 それに、僕は結構かっこいいイタリア製の自転車に乗っていますが、鍵をかけなくても一度も盗まれたことがない。アメリカの友人に話してもなかなか理解してくれません。落とした財布は戻ってくる。羽田空港のコンコースで席をとるために置いたスマホも盗まれないんだから。そんな国、確かにほかにないよ!