グノシー他、AppBank「モンスト攻略」ブーストでアプリダウンロード数を水増し
山本一郎 | 個人投資家
山本一郎です。人間としての品格を水増ししたいです。
ところで、先般より「上場ゴール」批判の厳しいスタートアップ界隈で、ニュースアプリを展開するグノシー社が先日上場しまして、かねてから「何このビジネスモデル?」と注目を浴びていたのですが業績を先ほど上方修正をしたようです。
ニュースキュレーションのGunosyが上方修正、純利益は1億3600万円に(Tech Crunch 15/6/12)
赤字14億円も想定通りと豪語するGunosyが色々な意味で話題です(ヤフーニュース個人 やまもといちろう 14/9/4)
“まとめサイトに毛が生えたやつ”大手のグノシー、上場ゴールに向けてバキバキの身体に仕上がる(市況かぶ全力2階建 15/3/24)
元から500万しか積んでいない利益予想が1億3,600万になったので27倍だと騒いでいるので何の冗談かと思うわけですが、そんなグノシーがリワード広告を大量にぶっ込んで、見ようによってはダウンロード数水増しとも言える問題を起こしています。
舞台となったのは、我らがmixiの経営を根底から立て直した大ヒットゲームアプリ「モンスターストライク」(通称『モンスト』)です。文字通りお化けタイトルになったわけですが、この「モンスト」はご他聞に漏れずゲーム内で有償アイテム(通貨)として「オーブ」というものを発行し、ユーザーがこれを消費することで強いキャラクターなどが出るガチャを引くことができます。
この大流行している「モンスト」で流通している「オーブ」は、プレイヤーならば誰もが欲しいと思うものですが、なぜか運営元のmixiがアプリ紹介サイト大手のAppBank運営の「モンスト攻略」というサテライトアプリを公認にしてしまい、そこで展開されているリワード広告の具として「オーブ」が活用されることになりました。これは、街頭で配っているチラシにちり紙がついているようなものです。
このリワード広告、業界では通称「ブースト」と呼ばれるものですが、通常はポイントアプリ、お小遣いアプリなどを通じて「これこれのアプリをダウンロードしたら、あなたに58円分のAmazonギフトをあげます」「一回45ポイントで1,000ポイント溜まったらQuoカード送ります」みたいな形で報償(リワード)を出します。みな、この報償目当てに、何度もアプリをダウンロードし、インストールして立ち上げます。昔はインターネット界隈で流行った懸賞サイトに近いもので、何も影響を及ぼさなければリワード広告自体は違法ではありません。ちり紙をいくら配ろうが、ゴミを散らかさない限り適法なのと変わりません。
しかしながら、アプリのダウンロード単体は違法でなくとも、利用の実体を伴わない可能性の強いリワード広告によるダウンロードは問題視され続けてきました。ある人が、上記リワード広告でポイントや「オーブ」欲しさに、ご自身の端末を使い一日一回を限度として数日にわけ何度もダウンロード、インストール、アプリ起動、ポイントや「オーブ」の受け取り、アンインストールを繰り返したとしたらどうなるでしょう。
ダウンロード数でランキングを決めているAppStoreやGoogle Playでの利用は「不正にランキングを操作するもの」であるとして禁止されています。ダウンロード数でランキングが決まる「有料ランキング」「無料ランキング」は当然に操作されますし、日本のアプリシーンにおいては「売上ランキング以外はブーストに占拠された」という状態に等しくなります。ちょうど一年前から、一斉にリワード広告のタネとなるお小遣いアプリが一掃され始めました。
もともと、これらのリワード広告の主たる利用者は、懸賞サイト時代と同じく時間のある中学生高校生のような学生と、暇な主婦がメインです。日本で、誰がプレイしているのか分からないようなゲームアプリが毎月何億ダウンロードという日本人の人口の数倍落とされていますが、そのカラクリは基本的にはこのリワード広告によるダウンロード数のブーストと、リセットマラソン(通称『リセマラ』)といわれるゲーム初期に引ける無料の高級ガチャで「良いカードが出るまで、インストールとアンインストールを繰り返す」行動様式に支えられているのです。
Appleがリワード広告(ブースト)取り締まりに本腰を入れたらしい件(ヤフーニュース個人 やまもといちろう 14/6/15)
App Storeランキング騒動の実態--「懸賞アプリ」に対する業界の懸念(CNET 13/03/01)
リワード広告の問題点は、街頭でのチラシ配りと異なり、ダウンロード数に応じてランキングが移り変わる仕組みを悪用していることにあります。お金をかけてリワード広告をすればダウンロード数が上がり、AppStoreやGoogle Playの「無料総合ランキング」というユーザーの目に触れやすいところに入るようになります。そうすると、面白いアプリを探しているユーザーは「おっ、このアプリは流行っているのだな」と有利誤認をすることになり、景品表示法上の問題を抱えることになるのです。
平たく言えば、上位のランキングをリワード広告にカネをブチ込むことで「買う」ことになるため、AppStoreもGoogle Playも利用規約でリワード広告の利用を明確に禁止しているのです。
いわずもがなですが、Google PlayはApple/AppStoreよりももっとガイドラインは厳格にリワード広告の実施を禁じています。mixiは、公式見解として「モンスト攻略アプリは当社の公認アプリであり、リワード広告を実施している点も認識しております。リワード広告自体がランキングの不正操作にあたるという認識はございません」と回答してきているのですが、明確にガイドラインで禁じられていることに自社主力ゲームのアイテムが堂々と流用されていたことを知らなかったというのは驚くべきことであります。
この「モンスト攻略」を運営するAppBankを率いているのはYouTuberとして宣伝にも出ていた「マックスむらい」こと村井智建さんです。見ようによってはこの極めて悪質なリワード広告を何も知らない中学生高校生相手に村井さんらが展開して利益を得ている形になります。AppStoreが明確に利用規約でリワード広告を禁止しているにもかかわらず、です。儲かりさえすれば何をしてもいいと考えているのか確認したく、AppBank関係者に事前に事実関係と質問内容を添えたメールを送り昨日(12日)面談する予定だったのですが、お会いする1時間前に急用ができたとかでドタキャンされてしまいました。何か気に障ったんでしょうか。
マックスむらいがオワコン化→ブーストするの図 #AppStore定点観測 5/23(アップトーキョー 15/5/23)
要するに、AppBank社がメディアとして自社ゲーム「マックスむらいアプリ」を自社サイト記事やYoutube動画で告知しても800位圏外にしかならず、結局はカネを叩いてリワード広告を各社に打ち込んでブーストかけないとダウンロード上位には来ないという話であります。
また、アプリのダウンロード数そのものがビジネスの根幹になっているビジネスの場合は、リワードでもテレビタイアップでも何でもいいからダウンロード数を稼ぎたいというモチベーションが生まれます。それが今回のグノシー社の提供する「Gunosy」他アプリ群です。
AppBankは「ユーザー様からのご指摘やご意見は、ぼほいただいていない状況」と説明しておりましたが、たとえばリワード広告を活用するグノシー社は、IRにおいてその成長可能性の根拠をダウンロード数に設定しています。
ダウンロードをされてもどのぐらい利用されているのか分からないのでは、投資家としてもグノシーの成長性を判断できないわけで、グノシーのIR担当にも質問メールと電話で状況を確認しましたところ、次のような回答でありました。
以下、少し回答文を引用します。
「ダウンロード数(DL数)が収益に直接的には響かないというご指摘につきましては、山本様のご見解のとおりであると認識しております。しかしながら、DAUにつきましては、競争戦略上の重要な指標であることから現段階では非開示とさせていただいております」
「DL数は収益に直接的に響く指数ではないものの、『DL数』と併せて『1DLあたり収益』は投資家様が弊社の事業の成長性を判断するに際して重要な指標であると考えております」
その「Gunosy」のダウンロード数がAppBank「モンスト攻略」のリワード広告(ブースト)で水増しされていることが外部から確認できる状況で、グノシー社のIR担当さんが主張していることを真正面から信じることはなかなか難しいことです。アドネットワークなど社外向けのサービスやタイアップ広告も含まれニュースアプリ「Gunosy」の広告売上以外にも存在するのであれば、ダウンロード数の伸びだけでグノシー社全体の成長可能性を投資家が外部から判断することなどできないからです。
グノシー社から投下された「Gunosy」向けリワード広告の出稿量からしますと、現在977万ダウンロードとされている数字の実に3割がリワード広告によるダウンロード数のゲタになっているのではないかと見られます。一度利用をやめた方が戻ってきて再インストールされた数もあると思いますので、正確ではありませんが、仮にそうであったとしてもダウンロード数にはダブルカウントされていることになります。
専門的になりますが、グノシー社におけるニュースアプリ「Gunosy」上の広告売上がどれだけの割合を占め、その使われている広告宣伝費がニュースアプリ「Gunosy」の普及にどれだけ投下されているのか、「Gunosy」の一日あたりの利用者数(DAU=デイリー・アクティブ・ユーザー)と、一人のユーザーがアプリを使わなくなるまでに稼げた収益の平均値(顧客生涯価値:LTV=Life Time Value)がはっきりしなければ、いくらダウンロード数が伸びていても第三者的には事業価値や将来性を正確に判断することはなかなかできないのです。
ましてや、mixi製「モンスターストライク」のプレイヤーは資料が正しければその7割が中学生、高校生などの未成年であり、彼らに「オーブ」の報償をあげてAppBank「モンスト攻略」経由でニュースアプリ「Gunosy」をせっせとダウンロードさせても、その大多数は「モンスターストライク」で楽しく遊びたいだけですから使いっこないんですよね。
これらの懸念を払拭するには、グノシー社が長らく発表してこなかったDAUやLTVといった、アプリのビジネス力を評価するための指標や、売上の詳細な内訳、とりわけアドネットワーク収入と広告記事収入については丁寧な開示をしていただく以外にないと思います。
ただ、グノシー社の前にはアドランティス売却話という”前例”もありますので、よほどのことがない限り開示したくないというのが正直なところなのかもしれません。
そのような脱法的とも言えるリワード広告を使ってAppBank「モンスト攻略」経由でダウンロードを稼いでいたのは「Gunosy」だけではありません。非ゲームアプリでいうならば「755」(サイバーエージェント、7gogo)、「AWA」(エイベックス、サイバーエージェント)、「minne」(GMOペパボ)といった各社アプリも「Gunosy」ほどではないながらも活用していました。各社、発表として「○○万ダウンロード突破」という内容で株価が変動したりしておりますが、述べてきたとおりリワード広告によるダウンロード数の水増し、ゲタがあるようであれば、その数字がどこまで信頼できるものなのか分かろうというものです。
もちろん、各社IRにも「貴殿らは何ゆえにリワード広告にカネぶち込んでダウンロード数を水増ししたでござるか」と質問を送り、各社からご回答をいただいてはいるのですが、リワード広告が問題だと分かっていなかったり、水増しの意図はなかったといった反応を頂戴しております。どうも、AppBank社や代理店は、問題点を認識しないままこれらの非ゲーム系アプリの販売促進のメディアプランにリワード広告を組み込んでしまっていたようです。
そして、現在アプリ系で主力となっているスマホ向けゲーム市場においては、これらの仕組みを使ってゲームプレイヤーのリストをぐるぐると回してダウンロード数をお互いに稼ぎ合うというモデルができてきております。もしも目に余るようであれば、次回以降、この問題についても実際の会社名、アプリも明記しつつ、カラクリを説明してまいりたいと思います。
最後になりますが、おとといAppBank社の運営する「モンスト攻略」はAppStoreから削除されました。AppBank社は表向きは「不具合による削除」と記述しておりますが、Apple周辺の話を総合するとAppBank社に対してリワード広告によるランキングの不正操作を行わないよう警告しております。
今後は、リワード広告において鵜飼いの鵜となる中高生集めの”箱”としてのお小遣いアプリにも焦点が集まります。現在は、うまく隠蔽された架空の個人名や存在しない法人名で運営されているものが100個以上AppstoreやGoogle Play上に上がっておりますが、実際にはこれらのアプリはおおよそリワード広告の卸会社である4大ネットワークと必ず取引があり、さらにその大多数は特定可能であって、それらはすべて上場企業と見られます。
これらの問題が露顕する前に、なるだけ早い段階でリワード広告から撤収され、ランキングを正常な状態にし、消費者に対して不利益になるようなことが起きなくなるアプリ界隈を目指していっていただきたいと思います。