社説:高齢者免許制度 返納後の支援が必要だ

毎日新聞 2015年06月16日 02時30分

 交通安全対策の強化とともに、運転免許を失う高齢者への支援も充実させたい。

 75歳以上のドライバーについて認知症の検査を厳しくし、場合によっては免許を取り消す改正道路交通法が成立した。認知症が原因とみられる事故が絶えないためで、やむを得ない措置だろう。

 警察庁によると、免許を持つ10万人当たりの死亡事故件数(2013年)は75歳以上が75歳未満の約2.5倍。現行制度では、75歳以上で免許更新する際、記憶力や判断力を調べる検査が義務づけられ、認知機能の低下が進んだ「認知症のおそれ」と判定されたのは、13年に約3万5000人に上った。

 しかし、過去1年間に逆走や信号無視などの違反行為がなければ、免許を更新できる。違反をしたため医師の診断を受けた人は524人にとどまり、免許の停止・取り消しはわずか118人。改正法では免許更新時の検査で「認知症のおそれ」とされれば、違反行為がなくても医師の診断が義務づけられ、認知症が確定すると免許が取り消される。

 法改正で、免許を失う高齢者は確実に増加する。免許を自主的に返納する人も増えるだろう。

 一方で当事者にとっては生活の足を奪われることを意味する。とりわけ地方では深刻な問題だ。過疎化が進む山間部などでは路線バスが減っている地域が多い。免許を失えば、買い物や通院が不自由になる高齢者はいっそう増える。

 地域はどうすればいいのか。参考になる事例もある。兵庫県豊岡市では、民営の路線バスが休止した地域で、定時に走る市営バスと、事前予約制の市営バスを組み合わせ、運行している。これ以外の地域でも、住民の協力を得て事前予約制で小型のバスを運行している。

 豊岡市のほかにも、乗り合いバスや乗り合いタクシーを導入している自治体はある。第三セクターが車を保有し、運送事業者がタクシー事業を行う方式で交通網の再生を図る自治体もある。都市部でも、車に代わる交通手段として次世代型路面電車(LRT)の整備を検討する自治体が増えている。

 こうした動きを広げるには先進事例を参考にしつつ、自治体が旗振り役になって民間業者を巻き込み、地域の実情に合わせた交通体系を作ることが必要だ。

 国には自治体の取り組みを支援する柔軟な制度設計や規制緩和が求められる。

 また車の運転は生活の足だけではなく、高齢者の生きがいにもかかわる。免許返納をめぐって本人や家族が悩むケースは多い。福祉の面からの支援も大切だ。

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