温泉巡り:称号競争が過熱 ついに究極の位が決定
毎日新聞 2015年06月14日 22時19分(最終更新 06月15日 08時50分)
大分県別府市の温泉88カ所を巡って名人を目指す「別府八湯温泉道」の実行委員会は、88カ所を88巡した人へ贈る称号「泉聖」を究極の位とし、これより上位の新たな称号は作らないことを決めた。これまで記録が達成される度に最高位の称号を新設してきたが、次々に新設された「頂点」を目指すスタンプラリーの過熱化で「不正」行為も出てきたことが背景にある。【大島透】
温泉道は88カ所に入湯した人に「名人」の称号を贈る仕組み。参加者はパスポートならぬ「スパポート」に入湯印を押していく。市観光協会などでつくる実行委が2001年に始め、88カ所を制覇した名人は県内外に6074人。88カ所を11巡すると永世名人▽22巡で名誉名人▽33巡で永世名誉名人▽44巡で王位名人−−とプロ棋士のようなピラミッドがある。
最近はさらにレースが激化し、55巡で「永世王位名人」、66巡で「泉王名人」、77巡で「永世泉王名人」、88巡で「泉聖」と達成者が出るたびに上位の称号を新設した。
一方、過熱する参加者のマナーへの温泉側からの苦情も目立ってきた。実行委によると「カラスの行水」式に1日に10カ所もの温泉に入り、数を稼ぐ人はまだ良い方。「金を払えば文句はないだろう」と風呂に入らずスタンプだけ押して帰る人や、スパポートを何冊も買い込み無人の共同温泉で多くのスタンプをまとめて押す人も目撃されたという。
市観光協会で温泉道を担当する堤栄一郎さん(33)は「88カ所巡りは本来、別府の数多い温泉を何年もかけて愛してほしくて始めた。温泉への愛よりスタンプ数が優先しては本末転倒だ。区切りが良い88×88で打ち止めにしました」と話す。
現在ただ一人「泉聖」の称号を持つのが東京都東大和市の指原(さしはら)勇さん(67)だ。5月15日に認定された。44巡への到達が3番目だった指原さんは55、66、77、88巡で一番乗り。家族を東京に残し、1人で別府市の実家に住んで温泉を巡った。この1年は別府に1カ月、東京に1週間の繰り返しだったという。
これ以上称号が新設されないと知った指原さんは「正直ほっとしました。追い抜かれるのが怖くて、3月から1日11カ所のペースで湯に入った。市広報の表紙にも使われ、他の人には負けられないという重圧があった」と話す。
電話工事会社に勤め、アフリカや東南アジアでの生活が長かったが、「定年後、これほど夢中になったものはない。温泉道から生きがいと誇りをもらった。今後はボランティアで別府の身障者の入浴を助けながら1日に1温泉のペースでのんびり湯につかりたい」と話している。