ドクターZは知っている

雇われた元ゴールドマン・サックスの幹部 
ゆうちょ銀行は「運用のプロ集団」に生まれ変われるか

2015年06月14日(日) ドクターZ
週刊現代
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〔PHOTO〕gettyimages

上場に向けて動いているゆうちょ銀行の運用担当責任者に、元ゴールドマン・サックス証券の副会長(日本人)が就く。これまでは国債投資中心だったが、今後は株などのリスク資産への投資も増やす予定で、その投資責任者として「プロ中のプロ」を招いたようだ。しかし、そうした「プロ」を呼んだところで、ゆうちょ銀行が一気に「運用のプロ集団」に生まれ変われるのだろうか。

金融機関の資金運用には、大別すると、株式・債券と貸し出しがある。

前者は市場型金融であり、後者は相対型金融。前者の市場では「プロ」がしのぎを削っており、長期的に安定した収益を上げるのは難しい。後者の相対取引では継続的関係が重視され、比較的高収益が可能である。

小泉純一郎元首相が推進した郵政民営化のキモは、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2社の完全民営化によって、民有・民営を行うことだった。ところが、民主党政権下で連立与党となった国民新党が民営化に断固反対の立場だったため、その要求を容れて、ゆうちょとかんぽの株式の一定割合を実質的に政府が保有し続けることになった。完全民営化に逆行する改悪である。

金融ビジネスは信用力が重要な要素なので、危機対応で一時国有化する場合を除き、政府は株式を保有しないのが原則だ。政府保有では政府の丸抱えだから、民間金融機関との競争条件が著しく不公平にならざるを得ない。特に、金融機関の「ドル箱」である貸し出し分野に、ゆうちょ銀行は進出できないだろう。もっとも、ゆうちょ銀行はこれまで貸し出しを本格的にやったこともないので、人材とノウハウ不足でやれといってもすぐにはできないのだが。

完全民営化が否定された上で政府出資を残せば、貸し出しができず、収益は上がらない。こうなると最大年間1兆円ともいわれる逸失利益が避けられない。この意味で、完全民営化でないスキームでは、上場しても企業価値を最大化できない。

しかし、今年9月に日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が同時上場する予定の日本郵政グループは、4月1日に西室泰三・日本郵政社長が会見し、'15~'17年度中期経営計画(中計)を発表した。「高度なリスク管理と運用体制を確保する」ことで、'17年度連結純利益を4500億円程度とする強気の目標を掲げた。

こうした状況で、運用を任される人は正直いって気の毒だ。普通の金融機関なら、株式・債券と貸し出しが車の両輪となって収益に貢献するが、ゆうちょ銀行では、株式・債券の片輪走行なので、野球でエースと四番を同時にやれというようなものだ。高校野球ならいざしらず、プロ野球で、20勝・20ホームランを要求されたら、さすがの二刀流の日ハム・大谷選手でもできないだろう。「プロ中のプロ」でも、できないことを求められたら辛い。それこそ悲劇だ。

ゆうちょ銀行では、いまだに官僚的体質も抜けていない。市場経済に疎い官僚気分で、「やればできる」という単純なノリで、無理な運用に走る可能性もなきにしもあらずだ。それで失敗したら目も当てられない。

一刻も早く、ゆうちょ銀行は完全民営化して、普通の金融機関になるべきである。

『週刊現代』2015年6月20日号より


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