国の借金が1千兆円を上回るのに、今年度の予算は54兆円余の税収に対して歳出が96兆円を超え、なお借金を重ねている。

 財政再建策を議論している政府の経済財政諮問会議のメンバーには、そんな現状への危機感がないのだろうか。

 税収の伸びを大きく見込む。歳出への切り込みには及び腰。デフレからの完全脱却へ正念場を迎え、17年度に10%への消費増税を控えるとはいえ、姿勢の甘さが目につく。

 当面の課題は20年度の国・地方を通じた基礎的財政収支の黒字化だ。今年度は16兆円余の赤字。実質2%、名目3%という高めの成長が続き、消費増税を織り込んでも、20年度になお9兆円余の赤字が残る。そんな内閣府試算が出発点だ。

 そもそも前提とする経済成長の実現が容易でなく、税収増に期待するのは危うい。高齢化や物価上昇に伴って増えていく歳出をどこまで抑えるかが問われることになる。

 ところが、である。諮問会議での議論はこんな内容だ。

 経済構造の高度化や高付加価値化で新たな税収増を図る。

 歳出については「聖域なき見直し」を進めるが、具体的な抑制・削減額は示さず、分野ごとの上限設定も見送る。

 結局、18年度に基礎的収支の赤字を国内総生産(GDP)比で1%まで改善する中間目標と、専門調査会を設けてチェックすることを打ち出すのにとどまりそうだ。

 税制改革では安倍政権は10%超への消費増税を早々に封印した。ならば、歳出改革がいっそう重要になるはずだ。

 分野ごとの抑制・削減目標については、1997年の財政構造改革法、2006年の財政再建計画で挑戦したが、共に失敗に終わった。機械的な上限設定が経済の変動に合わなくなるなど、難点があったのは事実だ。

 同じ失敗を避けるというなら、最低限、個々の予算項目にメスを入れていくための指針を打ち出すべきだろう。

 社会保障では、「世代」に加えて「資産や所得」を制度改革の軸にすえる。公共事業では、既存施設の維持と更新に集中し、新設を徹底的に抑える。自治体全体では基礎的収支が黒字であることを踏まえ、地方への財政支出では08年のリーマン・ショック後に始めた特別措置の打ち切りを急ぐ。

 いずれも既得権がからむ難題だが、避けて通れない。首相が議長を務め、主要閣僚や財界首脳が名を連ねる諮問会議こそが旗を振るべきではないか。