神戸連続児童殺傷 遺族、加害男性手記の出版社に抗議申し入れ
産経新聞 6月13日(土)23時6分配信
平成9年に神戸市須磨区で発生した連続児童殺傷事件で、加害男性(32)が手記を出版したことを受け、殺害された土師淳君=当時(11)=の父、守さん(59)と、代理人弁護士は13日、発行元の太田出版に抗議する申入書を送付した。全文は以下の通り。
貴社は、平成9年発生の神戸連続児童殺傷事件の加害男性から手記を入手して、6月10日発売の「絶歌」という題名の書物を出版しています。
上記の手記出版行為は、本事件の遺族に重大な2次被害を与えるものであり、私たちは、以下のとおり、強く抗議を行うとともに、速やかに同誌を回収するよう申し入れます。
犯罪被害によって近親者を奪われた遺族の悲嘆が甚大であることは言うまでもありません。
そして、遺族は、犯罪そのものによる直接的被害に加え、その後の周囲からの心ない対応や、過剰な報道により、その名誉や生活の平穏が害され、深い孤立感にさいなまされるなどの2次被害を被ることも少なくありません。
本事件においては、直接的被害の重大性は言うまでもないところであり、それに加え、事件後のセンセーショナルな報道などによる2次被害も重篤なものでありました。
遺族は、本事件により筆舌に尽くしがたい被害を被り、事件後約18年を経て、徐々に平穏な生活を取り戻しつつあるところでした。
また、私たちは、毎年加害男性から手紙をもらっており、今年の5月の手紙では、これまでとは違い、頁数も大幅に増え、事件の経緯も記載されていました。
私たちは、加害男性がなぜ淳を殺したのか、事件の真相を知りたいと思っておりましたので、今年の手紙を受け取り、これ以上はもういいのではないかと考え、少しは重しが取れる感じがしておりました。
ところが、貴社が本誌を出版することを突然に報道で知らされ、唖然(あぜん)としました。
これまでの、加害男性の謝罪の手紙は何であったのか?
今にして思えば、心からの謝罪であったとは到底思えなくなりました。
18年もたって、今更、事件の経緯、特に淳への冒涜(ぼうとく)的行為などを公表する必要があったとは思われません。
むしろ、加害男性は自己を正当化しているように思われます。
貴社の出版行為によって、本事件が改めて社会の耳目を引くこととなり、また、淳への残忍な行為などが広く社会に知られることとなりました。
もとより、遺族は、最愛の子が殺害された際の状況について、18年を経過した後に改めて広く公表されることなど望んでいないことはいうまでもありません。
私たちは、多大な衝撃を受けており、いたたまれない気持ちです。もういいのではないかという思いが完全に踏みにじられました。
このように、遺族の受けた人格権侵害および精神的苦痛は甚だしく、改めて重篤な2次被害を被る結果となっております。
貴社は、新聞報道によると、「批判はあるだろうが」、「反発やおしかりも覚悟している」などと開き直った発言をしているとのことです。
このように、貴社は、遺族の2次被害について検討した形跡は全くなく、むしろ、2次被害もやむを得ないと考えているようで、極めて配慮を欠き、悪質なものであります。
一般に、出版・表現の自由は国民を知る権利に資する点に価値があるとされております。
そして、貴社は新聞報道によると、「彼の心に何があったのか社会は知るべきだと思った」、「事実を伝え、問題提起する意味はある」などと発言して、本件出版が少年事件を一般的に考察するうえで意義があり、国民の知る権利に資するかの如く主張しておられます。
しかし、本事件は、わが国において発生した少年事件のなかでも極めて特異で残虐性の高い事案であり、その事件のいきさつなどを公開することによって、少年事件を一般的に考察するうえで益するところがあるとは考えがたいところであります。
また、一般的に言えば、加害者側がその事件について、手記などを出版する場合には、被害者側に配慮すべきであり、被害者の承諾を得るべきであると考えております。
従って、本件出版行為は、出版・表現の自由や国民の知る権利を理由として正当化しうる余地がありません。
もとより、出版・表現の自由は無制約のものではありません。他者の権利・利益を侵害することは許容されません。
貴社による本件出版行為は、公益的観点からの必要性も認められないにもかかわらずあえて加害者の手記を公表し、遺族の人格権を侵害し、重篤な2次被害を与えているものと言わざるを得ません。
従って、私たちは、貴社に対し、上記出版行為について強く抗議を行うとともに、速やかに本誌を回収するよう申し入れるものです。
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