数年に1度でも結構ですので血液検査を受けられたらよろしいかと思います。
どうもありがとうございました。
(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(林家正蔵)ご来場でありがたく御礼を申し上げます。
どうぞ一席の間のおつきあいを願っておきます。
昔とただいまとではいろいろなものが変わりました。
中で旅というものが随分変わりました。
昔は良かったんです。
それは大変な事があったんでしょうけれども2本の足でもってテクテクテクテク歩く。
季節の風を感じまた土地の名物を頂く。
どちらかというと昔の旅のほうが豊かな旅ではなかったかなとそんな感じが致します。
で宿外れに来ると大勢の客引きが「うちの宿に泊まってもらおう」と旅人の袖を引っ張っていたというそんな時代のお噺でございます。
「旅人は行きくれ竹の群雀とまりては発ちとまりては発ち」。
「おじさん。
おじさんは旅の方かい?」。
「そうだよ坊や。
脚絆甲掛け草鞋履きまぁ振り分けの荷を持ってるところを見りゃ大概は旅の人だな〜」。
「じゃあどっか泊まるんだね?もしよかったら俺らん家に泊まってもらえねえかな?」。
「おう?坊や宿の客引きさんか?あ〜そうか。
おじさんどこに泊まるあても無しだ。
それじゃ坊やん所へ厄介になろうかな」。
「泊まってくれるのかい?ありがとうございます。
家大きくありませんよ。
部屋もきれいじゃありませんよ」。
「構わないよ。
おじさんの身装を見てごらん。
それほどいい所に泊まろうて身装じゃなしなまぁ一晩ぐらいだったら汚くても構わないよ」。
「あの〜おじさんおじさんはさぁ寝る時に布団を掛けたり敷いたりして寝ますか?」。
「坊やと話してると軽いめまいを覚えるな〜。
そりゃねおじさんだって宿に泊まるんだ。
布団を掛けたり敷いたりして寝たいな」。
「そうですか?それじゃおじさん20文下さい」。
「おう?坊やの宿は前金かい?」。
「あっあの〜前金て訳じゃないんですけどもね家あの〜恥を話すようなんですが布団屋さんに借りがありましてね20文持ってかないと布団貸してくれないんですよ。
ね〜おじさん今晩寒い思いして寝たくなかったら今出したほうが身のためだぞ」。
「分かった分かった。
20文でいいのか?そら持っていきな」。
「あっありがとうございます。
本当だったらおじさんを宿まで案内しなくちゃいけないんでしょうけどもねおじさんを案内してたりそれから布団屋さん寄ってたら遅くなりますんでおじさん一人で行って頂けますか?いや迷う事ありません。
この道まっすぐ歩いてって下さい。
しばらく行くと仙台のご城下なおまっすぐ歩いていくとね旅籠町に出ます。
うん。
で迷う事があったら右のほうを見てって下さいな。
虎屋という大きな宿があるんです。
ここ仙台一の宿なんですよ。
その前に小さな家があるんです。
そこが私ん家なんです」。
「そうか。
坊やの宿は何てんだ?」。
「はい鼠屋」。
「何だい?」。
「鼠屋」。
「坊やの宿は鼠屋さんか。
よし迷う事があったら虎屋を頼りに行ってみる事にしよう。
布団のほうは頼んだよ〜。
行っちまった。
かわいらしいもんだね〜。
ええ?大人になるってぇとなかなかできない恥でも何でも話す。
子供の宝だ。
おうおうなるほど坊が言ったとおり旅籠町に出たようだな。
これかい?虎屋というのは。
ハア〜驚いた。
『名は体を表す』というが威風堂々として辺りを払ってる。
いや〜立派な宿だ。
その前の鼠屋。
これかい?おい。
ばかに小さいねこりゃ。
おや誰かいるようだ。
入ってみる事にしよう。
ごめんよ。
鼠屋さんはこちらかい?」。
「はい。
あ〜お客様でございますか。
ありがとうございます。
さあさどうぞお入り下さいまし。
ここにお掛けになって。
ええ手前どもが鼠屋でございます。
お客様。
本来ですと私がすぐにお濯を取ってそのお御足を洗いたいところではございますがご覧のとおり腰が抜けておりまして裏の小川でもってお御足洗って頂きとうございます」。
「随分手間がかかるんだな。
あ〜行ってきた行ってきた。
いや〜今日は日ざしが強かった。
暑い中を歩いてきたから冷たい水が何よりのご馳走。
うん?さっきの坊やが戻ってきた。
坊や坊や」。
「あっおじさ〜ん本当に来てくれたんですか?ありがとうございます。
じき布団届くと思いますからご安心を。
それからあの〜おじさんおじさんはあの〜御飯食べますか?」。
(笑い)「食べますよ」。
「そうですよね。
弱っちゃったな〜これからおかずを煮たり焼いたり御飯を炊いてたら遅くなります。
そうだおじさんお寿司のうまい店があるんです。
お寿司買って参りましょうか?」。
「うん?坊やいいところに気が付いたな。
おじさんの大好物だ。
食べ終わったあとにね口の中がさっぱりするあんな結構な物はないよ。
お寿司を買ってきてもらおうかな」。
「あの〜おじさん何人前買って参ります?5人前も買って参りましょうか?」。
「ちょっと待っておくれ坊や。
おじさんは一人だ。
5人前は食べられない」。
「あの〜おじさん私お寿司が大好きなんです。
お父っつぁんも大層お腹すかしておりまして」。
「ちょっと待っておくれ坊や。
この宿はなにかい?旅の者が宿の者を養わなくちゃいけないのかい?お腹がすいてるのか。
あ〜そうか。
じゃあこっち来な。
うん。
あのねこれでもってねお酒を2升ばかり買ってきておくれ。
ええおじさんが飲むんだ。
余ったおつりで好きなだけお寿司を買ってきな」。
「ええっ?いいんですか?ありがとうございます。
お父っつぁん。
こちらのおじさんがお寿司をご馳走して下さるって。
ええ?俺ら買ってくるから。
じゃあおじさん行ってきます」。
「アッアッア〜ッ…。
お客様お客様。
子供の申します事にいちいちお腹立ちもなくありがとう存じます」。
「ほう伜さんか?」。
「ええ。
左様でございます。
手前どもの悪さでございます」。
「おうそうか。
いやかわいらしい子供だね〜。
幾つになる?」。
「ええあれ今年で12になります」。
「おうまだ12か。
12といやぁまだね外でもって独楽を回したり凧を揚げたりして遊びたい盛りだ。
それをね宿外れでもってお客さんを呼んでこようってんだから偉いお子さんだな〜。
でもお父っつぁん子供のやる事だ中には腹を立てて帰る客も多いんじゃないかい?」。
「仰るとおりでございまして泊まって頂けるお客様はごくごく稀でございます」。
「だったら奉公人を雇ったほうが商売はしやすかろう?」。
「ええ。
お客様の仰るとおりでございます」。
「何か訳があるかい?」。
「はい?」。
「この家には何か訳がありそうだ。
その訳話してごらんよ」。
「左様でございますか。
お客様にはなにか心の底まで見透かされているそんな気が致します。
こりゃ嘘がつけませんな。
それでは年寄りの愚痴話ひとつお聞き願いましょう。
お客様。
私は以前はあの前の虎屋の主でございました」。
「お前さんがあの虎屋の主?本当かい?虎屋が何だって鼠屋になっちまったんだい?」。
「はいこれには少々こみ入った訳がございまして。
私5年前に女房に先立たれました。
まぁ男の目ではなかなか行き届かぬところもございますんで『早く後添えをもらえ。
あれだこれだ』とお話を頂きましたがその時分家でもって女中頭をしておりましたお紺これをあとに直しまして初めのうちは何事もなくうまくやってたんでございますがその年の七夕祭のことでございます。
二階のお客様が喧嘩を始めました。
お酒の上の喧嘩。
丼鉢は割る皿は投げつける。
まぁどちらのお客様におけががあってはいけないというので私止めに入ったんでございますがあっちへ押されこっちへ押されさてさてどなた様に押されたんでございましょう。
梯子段の所不意に背中をド〜ンと一突きツルッと足を滑らせる。
上から下までドドドドド〜ッ。
したたかに腰を打ちました。
もうそれ以来この腰は役立たずでございます。
家で寝込んでおりましたらここから1軒おいて生駒屋という宿がございます。
ここの主が見舞いに来てくれたんですがお客様妙な事を言うんです。
『おい卯兵衛。
お前の腰が抜けたのは知ってはいたが料簡まで腑抜けになったか。
お前伜の体を見てやった事があるのか?お前みたいな薄情な奴とはもう金輪際つきあいはしないぞ』。
畳を蹴立って帰ります。
『さて妙な事を言うもんだ』と思っておりましたら伜がちょうど寺子屋から戻って参りましたんで『おいおい。
伜こっちへ来な。
お前着物を脱いでみろ』。
モジモジして着物を脱ぎません。
『早く脱がねえか』。
嫌々ながら着物を脱いだ。
その体を見て驚きました。
なんと体中生傷だらけ。
『お前その傷はどうした?』。
『近所の子供と喧嘩した』。
『嘘をつけ。
子供の喧嘩でそんな傷ができるか。
正直に言わねえと承知しねえぞ』。
声を荒げますと伜が裸のまんま私の首っ玉にかじりついて参りまして『お父っつぁん。
おっ母さんはなぜ死んじまったんだ〜っ』と泣かれた時には私も泣けました。
『いや自分の体ばかりを思って伜の面倒を見ていられないなんて情けない親なんだろう』。
まさかお紺が折檻しているとはつゆ知らず。
『どうしたらいいんだろう?』いろいろと考えてみたんですが『そうだお紺と伜を離せばよろしかろう』というのでここを…以前は鼠の多くいた物置でございましたが店の者にきれいに掃除をさせる。
三度三度の物は前から運ばしておりましたが三度の物が二度になる。
来ない日がございます。
伜を取りにやらせると泣いて戻って参りました。
番頭が言うのには『今宿が忙しいのに腰抜けの面倒が見ていられるか』。
伜をぶったとか蹴ったとか。
そうこうしているとまた生駒屋が家へ飛び込んで参りまして『おい。
前の虎屋いつ番頭に譲り渡した?』。
『冗談言っちゃいけない。
そんな事をした覚えはない』。
『そうじゃない。
番頭のやり口が汚いもんだから文句を言いに行くと『生駒屋さん。
手前どもと前のご主人様もう何の関わり合いもございません。
いや嘘じゃございません。
どうぞこれをご覧下さい』と差し出された物には『譲り渡すものなり』と書いてあり首と釣り替いの印形まで押してある。
『お前あの印はどうした?』。
『しまったお紺に預けっ放しだったか』と気が付いた時にはもうあとの祭りでございます。
まさかお紺と番頭がいい仲になっているとはつゆ知らず。
生駒屋が『いい。
お前たち二人の面倒は家で見てやる』とは言ってはくれたものの伜にその話を致しますと『お父っつぁん。
何から何まで生駒屋のおじさんにお世話になってたら乞食と一緒。
家には上に二間あるじゃないか。
俺ら宿外れでもってお客さん呼んでくるから泊まって頂いて細々と暮らしていこう』という訳でお客様にはいろいろとご面倒をかけているという次第でございます」。
「なるほど。
そんな訳がありましたか。
いや恩を仇で返すというのは許せないな〜。
よし分かった。
お父っつぁん。
この家には薪があるかい?」。
「何なさいます?」。
「乱暴な事をしようってんじゃないよ。
私がねこの宿に客が来るように何か彫ってみよう」。
「彫る?彫り物をなさるんでございますか?お客様。
いや実は私も彫り物が大好きでございました。
アハハハハ相すみません先ほどから私ばかりがベラベラと喋っておりましてまだ宿帳をつけておりません。
近頃お役人がうるそうございますんでひとつ宿帳のほうをお願い致します。
ええ。
お客様。
ご生国はどちらでございましょう?」。
「私の生まれた所はね飛騨の高山」。
「ほうこれはまた随分とご遠方から」。
「いや。
じかに来た訳じゃありません。
もう江戸へ出てかれこれ13年。
いまだに他人の家に厄介になってる風来坊ですよ」。
「ハア〜左様でございますか。
え〜江戸はどちらでございましょう?」。
「日本橋橘町大工政五郎内甚五郎」。
「ハア〜左様でございますか。
え〜じ…。
彫り物をなさ…。
お客様お客様。
お客様はもしかしたら今は天下に名高い飛騨の匠甚五郎先生でございますか?ハア〜ッ左様でございましたか。
いや〜知らない事とはいえどうぞ数々のご無礼お許しの程を」。
「お父っつぁん。
手を上げて下さいな。
名人だなんざはまぁ他人様が勝手に言って下さる事。
私ゃね扱いがコロッと変わるのが嫌なんだよ。
二階の一間貸しておくれ。
それといいかい?私がいいと言うまでは誰も近づけないでおくれよ」。
ご案内の飛騨の匠甚五郎です。
この人は変わった名人でして常に汚い身装をしてフラフラフラフラ歩いている。
それとどういう訳なんでしょうかとにかくお金に欲がない。
どんなにお金を積まれても嫌だと思ったら仕事をしない。
ところがこれはと思った仕事一文の銭にならなくても魂を込めて仕事をするという。
私とよく似た方でございます。
(笑い)二階の一間でコツコツコツコツ。
「できた。
おい。
頼んだぞ。
フウ〜ッ」。
「坊や坊や」。
「おじさん」。
「おう上がってきな」。
「駄目だよお父っつぁんに言われてるんだ。
おじさんの傍に寄っちゃいけねえって」。
「いや。
もうもういいんだもういいんだ上がってきな。
あ〜来たか。
そこじゃ遠い。
もうちょっとおじさんの傍へ寄んな。
うん」。
「ほら」。
「ア〜ッ鼠?」。
「そうだ。
鼠が生まれた。
坊やの所に客を呼ぶ福鼠だ。
かわいがってやっておくれよ」。
「どうすればいいんです?」。
これから言われたとおりに盥を持ってきてきれいに掃除を致します。
あとは甚五郎鼠を入れまして何やらしておりましたが上からこう竹網をかけておりまして…。
「お父っつぁんいろいろと世話になったな。
まぁこれからフラリと旅に出る。
また仙台に寄る事があったらここの宿に必ず顔を出す。
鼠のこと頼みましたよ」。
「ありがとうございます何から何まで。
長の道中くれぐれもお気を付けて」。
「茂十どん茂十どん。
こっち来うこっち来う。
ええ?鼠屋の前に札が立ったよぅ。
何か書えてある。
ちょっくら見べえ。
何て書えてあるかねぇ?うん。
『甚五郎作』?『福鼠』?何だろうね?『甚五郎作福鼠』って。
ええ?あっ父っ様いた。
父っ様父っ様。
何だね?この『甚五郎作福鼠』っつうのは」。
「あの名人の甚五郎先生が家ぃお泊まり下さったんですよ」。
「甚五郎泊まったかね?茂十どん。
ここの家甚五郎泊まったとよぅ。
いや〜嘘つくような父っ様じゃねえ。
ええ?見せてもらって構わねえかね?」。
「はいはい。
その盥の中に入っております」。
「そうかねぇ。
じゃあ茂十どんこっち来ぅ。
見せてもらうべえ。
な〜?俺甚五郎の彫った物見た事無えだよ。
ホ〜ッいたよ〜鼠。
かわいらしいもんだね〜。
いや木で彫ってあるで妙な色っ気だけれどもまあ〜うまく彫ってあるだねぇ。
いやただ木で…」。
「ウワ〜ッ鼠が動いた」。
「ばかこくでねえだよ。
木で彫ってある鼠動く訳なかんべぇ」。
「動いたよ。
それが証拠に今俺の顔見てニッコリ笑った」。
(笑い)「笑う訳なかんべえ。
われの体が動いたのだ。
俺が見るだよ。
われそそっかしいからしょうがねえがきの時分からだよ。
うん。
あ〜なるほどこれだね。
木で彫ってあるだよ動く訳なかんべぇ。
木で彫ってある物だよ動くわ…」。
「ワア〜ッお前の言うとおりだ。
動いた」。
「動くべ?」。
「ああああ。
動いた。
名人の作っつうのは魂籠もるっつうが本当だね」。
「そうだろ?本当だよぅ。
ああ。
どうした?」。
「いやどうしたじゃねえよ。
盥の底に何か書いてあるよ。
『この鼠ご覧の方は土地の方旅の方にかかわらず当鼠屋にお泊まり下されたく候。
お願い申し上げます。
甚五郎』。
あら〜っえれえ事になったよ〜。
俺とお前今晩ここさ泊まんなくちゃいけねえ」。
「ばかこくでねえだよ。
俺の家すぐそこでねえかよ」。
「でも泊まろう」なんというのでこの二人は泊まります。
帰って話をする。
大層な評判で。
「俺も見べえ」。
「われも見べえ」。
どんどんどんどん客が増える。
10日もする。
卯之坊がガラガラガラッと戸を開けるとズラ〜ッという行列で。
この行列の先が虎ノ門のニッショーホールまで届いていたという。
「おう江戸から来たんだ寄ってくるんだ。
ええ?甚五郎の鼠が動くんだって?わざわざ見に来たんだ。
ちょいと見させてもらおうじゃねえか」。
「ありがとうございますがもういっぱいなんでございます」。
「そんな事言わねえでよぅ廊下だって構わねえ」。
「廊下もいっぱいなんです。
二階の4畳半と6畳に今278人泊まっております」。
大変な騒ぎです。
さぁ鼠屋のほうは建て増しもする奉公人も増やす。
めでたしめでたし。
一方虎屋。
この番頭が怒ったのなんの。
そりゃそうでしょう。
悪い評判というのはすぐに広まります。
「あの番頭っていうのは悪い奴だよ。
とんでもない奴だ」。
客足が落ちるんです。
大勢の奉公人を抱えて誰も泊まらない。
もう死活問題でして。
番頭が怒ったのなんの。
「鼠屋の奴。
あじなまねをしやがる。
よしどうしよう?」。
思いついたのが仙台一の彫り物師飯田丹下の所に参りまして。
「飯田様。
お願いがございます。
甚五郎の鼠が大層な評判でございます。
如何でございましょう?虎屋にふさわしい…。
それはもう先生しかおりません。
いやお礼のほうはいくらでも支度致しますんでどうぞ彫って頂きとうございます」。
「うんその噂聞いている。
よし引き受けた」。
飯田丹下が引き受けるんです。
飯田丹下のほうとしてみれば別に金に目がくらんだ訳でもないんです。
ちょいとした心のひっかかりがある。
何かというと若い時分に仙台公の前にて飯田丹下とそれから左甚五郎彫り比べをしたという話が残っております。
出されたお題が奇しくも「鼠」。
仙台公の前に2匹の鼠が揃います。
仙台公お手に取ってご覧になったんですがとにかく名人が魂を込めて作った物ですから甲乙つけがたい。
「どうしようか?う〜ん」と唸っているとご家来衆の中にはやはり機転の利く方がいらっしゃいます。
何をしたかというと鼠のことですからお腹をすかしている猫これを借りて参りまして2匹の鼠の前にパッと放したんです。
すると猫は何のためらいも無く甚五郎の鼠をパクッとくわえるとス〜ッと行ってしまう。
「あっぱれ甚五郎」。
この勝負甚五郎が勝つんです。
ただあとでよく調べてみたら甚五郎は鰹節に彫っていたんだそうで。
(笑い)その時の恨みがあるんでしょうか幾日ん晩寝ずに一頭の虎を彫り上げます。
あらかじめ計算がし尽くされております。
二階の手すりの所にド〜ンと供えるとこの虎が鼠屋の鼠を睨みつけるようにカ〜ッと睨んだ。
今までチョロチョロチョロチョロッと動いていた鼠がピタッ。
「鼠鼠。
お父っつぁ〜ん。
鼠が動かねえ」。
「どうしたよ大きな声を出して。
ええ?そんな訳ゃないよ。
今朝お父っつぁんが見た。
ちゃんと動い…。
えっ?何?虎屋に虎がいる?虎が睨んでる?ど…。
あれか?番頭の奴どこまで嫌がらせをすりゃ気が済むんだコンチクショウ〜」。
腹を立てた途端に腰が立ったんです。
さぁ江戸におります甚五郎のもとに妙な手紙が一通届きます。
「私の腰は立ちました。
鼠の腰が抜けました」。
(笑い)「歌丸です」。
そんな事は書いてないんだ。
(笑い)この手紙をもらいました甚五郎二代目政五郎を連れて仙台へと乗り込んできた。
「お父っつぁん。
久しぶりだ。
商売繁盛何より何より」。
「ありがとうございます。
おかげさまで商売繁盛させて頂いております」。
「手紙を読んだ。
卯之坊にもさっき会ったよ。
いや泣いてて何を言ってるか分からないんだ。
どうした?うん。
虎が?睨んでいるから?鼠が動かない?虎?誰が彫った?飯田丹下さん?あ〜そうか。
早速見せても…」。
「お父っつぁん。
飯田さんが彫った虎はあれかい?間違いないかい?そうか。
二代目。
二代目のお父っつぁんは名人と言われた大工その伜さんだ。
お前さんはあの虎をどのように見るかな?」。
「そうですねおじさんそりゃねまだ私は若造ですからねあいだけの物彫ってみろ拵えてみろっていやぁ出来ゃしませんよ。
ただ見る目だけは持ってるつもり。
なにしろ胆ん中からの大工ですからね。
そうだねおじさん確かにあの虎ね額の所に『王』の文字『王頭の虎』には違いがねえが何か気に入らねえな〜。
どこなんだ?分かった。
おじさん。
あの目だ。
あの目がどうにも私は気に入らないな〜」。
「そうかい。
私と目のつけどころが一緒だ。
なぜ気に入らないか分かるか?あの虎目に恨みを含んでいる。
飯田さんまた心が動いたな。
それにつけてもだ。
鼠鼠。
よくお聞き。
私ゃお前を彫るのにね世の中の何事も忘れ魂を込めて彫り上げたつもりだ。
情けないぞそれなのに。
ええ?お前あんな虎が怖いのかい?」。
言われると鼠がヒョイッと顔を上げて「ええっ?虎ですか。
猫かと思った」。
(拍手)2015/06/13(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「ねずみ」[解][字][再]
落語「ねずみ」▽林家正蔵▽第669回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「ねずみ」▽林家正蔵▽第669回東京落語会
出演者
【出演】林家正蔵
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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