プロフェッショナル 仕事の流儀「時計に命、意地の指先 時計職人・松浦敬一」 2015.06.13


瀬戸内海に浮かぶ人口2,000人余りの小さな島。
江戸時代の町並みが残るこの島に飛び切り古い時計店がある。
この時計店100年を超える歴史だけが売り物ではない。
おっいやいやいやそれはそれはどうもどうも同級生だって。
写真を頼まれれば穏やかな表情で収まるこの男。
一たび修理に向かえばメーカーがさじを投げた時計もよみがえらせるスゴ腕の職人。
その腕を頼ってあらゆる種類の時計が全国からこの島に送られてくる。
広島にこの男ありと言われる信念の時計職人。
松浦は言う。
「時計には人生が刻まれている」。

(主題歌)小さな島で時計修理一筋に生きてきた。
使い捨ての時代廃業の危機に追い込まれた。
大阪から送られてきた…どうしても直したい理由があった。
進んだサビに修理は難航した。
時計修理に人生をささげる男。
その闘いの記録。
時計職人松浦敬一の朝はめっぽう早い。
(取材者)おはようございます。
はい。
朝6時半開店。
島の人が朝一番で時計を持ち込めるようにするためだ。
年中無休で盆も正月も一日も休まない。
まず取りかかったのは日課の掃除。
ほこりは精密機械である時計の大敵だ。
隅々まで徹底的に磨き上げる。
松浦は古いものを何でも修理して使い続ける。
(取材者)この電気も結構古いですね。
(取材者)すごいですね。
この電子レンジは妻小百合さんの嫁入り道具だ。
(取材者)いい奥さんもらいました?
(松浦)ええいい奥さんですよ。
(笑い声)時計の修理が始まった。
この日修理するのは20年前のスイス製腕時計。
5年前から時間が遅れだし他の時計店に修理を頼んだが無理だと断られたという。
この時計は電池を使わず腕を振る事でゼンマイを巻き上げる自動巻き。
大小100を超える精密部品が複雑に組み合わさって出来ている。
そのうちの1つでも異常があればたちまち時計は狂いだす。
機械本体の分解に入った。
故障の原因は何か。
歯車に古い油がこびりつき摩擦を生んでいると見抜いた。
一見正常に動いているように見える歯車。
だが汚れのない歯車と比べると動きは一目瞭然だ。
洗浄液に部品を浸しはけで汚れを丁寧に落としていく。
そして再び緻密なバランスに組み上げていく。
一つ一つ構造が違い設計図もない。
松浦は分解した時に全ての仕組みを頭にたたき込んでいる。
そしてその記憶を頼りに元どおりに組み上げていく。
時計は着実に時を刻み始めた。
この日難しい修理にぶち当たった。
50年前の機械式時計の心臓部に極めて微細な不具合が見つかったのだ。
直径僅か5ミリの「ヒゲゼンマイ」。
時計の精度をつかさどる最重要部品だ。
機械式時計はゼンマイを巻きそれが戻ろうとする力を動力として針を動かしている。
ただしこれだけでは一気にゼンマイが戻り時計はたちまち止まってしまう。
そこで活躍するのがこのヒゲゼンマイだ。
元に戻ろうとするゼンマイにブレーキをかけ一定のリズムで針を進ませる働きをしている。
時計の正確さを生み出す文字どおりの心臓部だ。
これが正常なヒゲゼンマイ。
渦の中心を軸に左右均等に回転している。
一方これが不具合の起きているヒゲゼンマイ。
分かりにくいが渦の形がゆがみ中心が上にずれてしまっている。
ヒゲゼンマイがゆがむと1秒を刻む精度に狂いが生じる。
500分の1秒狂っただけでも1日で3分遅れてしまうシビアな世界だ。
松浦がヒゲゼンマイの調整に入った。
極薄の金属で出来たヒゲゼンマイをピンセットでつかみゆがみを直していく。
古い時計では替えの部品は一切手に入らない。
しくじればその時計は死ぬ。
極度の集中が求められる作業。
(取材者)はいすみません。
カメラを遠ざけ更に集中する。
多くの職人が敬遠するヒゲゼンマイの修理に恐れず挑む松浦。
貫く流儀がある。
他の職人が諦めたものを直すためには皆が避けるしんどい作業を引き受けるしかない。
松浦は自らに逃げる事を許さない。
50年前の時計が見事に息を吹き返した。
はいはい。
松浦さんのもとには全国から壊れた時計が送られてくる。
その数年間300。
3年前から長男光司さんが手伝っているがそれでも半年から1年待ちの状態だ。
依頼は高級な腕時計からキャラクターウォッチ古い掛け時計まで年代も種類もさまざまだ。
修理に取りかかる前松浦さんには欠かさない事がある。
時計と一緒に送られてきた手紙を松浦さんはとにかく丹念に読み込む。
手紙で分からない事はじかに電話で確認する。
御手洗の時計屋ですがどうも。
依頼者の思いに深く触れてこそ飛び切りの集中力が発揮できると松浦さんは信じている。
あっこんにちは。
・こんにちは。
この日修理を終えた時計の引き渡しがあった。
時計に寄せる思いは持ち主一人一人違う。
あぁ〜。
(光司)だいぶきれいになって。
(松浦)きれいに磨いておきました。
きれいになったでしょ?きれいになってますね。
この時計は父親から昔もらったものだという。
ずっとこれしてたんですよね。
(松浦)お父さんも頑張って買うたんじゃ。
今病と闘っている父に逆にこの時計をプレゼントしたいのだという。
この日特別大きな掛け時計の修理に取りかかった。
広島の由緒ある寺からの依頼だ。
ここ10年ゼンマイを巻いても止まってしまい他に修理を頼んだが無理だと断られていた。
(時打ち音)程なく修理が難しい理由が判明した。
以前他の職人が修理を施した跡が残っていた。
この時計は長年のうちに軸を受ける穴がこすれて広がり歯車がかみ合わなくなっていた。
直すにはすり減った側をタガネでたたいて延ばし穴を狭めねばならない。
だがこの時計は既に一度タガネが打たれている。
その跡を避けて直せるかどうか。
慎重に修理の道を探る。
目指す仕事の姿がある。
松浦は「何とかなった」というような仕事をとにかく嫌う。
「これが最善」と自信を持って言い切れるまで粘り抜くのが信条だ。
タガネを打つ場所を見定めた。
(タガネを打つ音)狂いなく動いてこそ時計。
ぎりぎりの高みを目指していく。
(タガネを打つ音)松浦は以前の修理跡の内側を小さく深く打ち広がっていた穴を元どおり狭めた。
更に1か月かけて微調整を繰り返し完璧を期す。
(時打ち音)うわきれいになってから。
(笑い声)
(笑い声)松浦さんは修理に疲れると瀬戸内の海を眺めに行く。
子供の頃から親しんできた穏やかな海だ。
この島で店を守り50年。
それは人知れず闘いを続けた年月でもあった。
松浦さんがこの島の時計店の4代目として生まれたのは終戦間際の昭和19年の事。
生まれつき手先が器用その上飛び切りの負けず嫌い。
そんな少年の才能を見抜いた人物がいた。
祖父哲次さん。
県外から弟子が志願してくるほど腕が際立つ時計職人だった。
哲次さんは小学生の松浦さんを弟子に交ぜ手ほどきを始めた。
すると中学生の頃には「弟子の中で一番」と認められるほどになった。
「大きくなったら店を継ぎ腕を存分に発揮しよう」。
だがその夢は高校に進む頃急速にしぼんでいく。
昭和30年代広島では自動車産業が急成長。
その景気に押されミカンの他に産業のない島から人が次々出ていった。
島にいてもいずれ暮らしは厳しくなる。
いっそ外に出て力を試そうか。
迷いの日々が続いた。
そんな時祖父ががんで倒れた。
松浦さんが病室を見舞った帰り際哲次さんが追いかけてきた。
「もう先がないから店を頼む」。
それが最期の会話となった。
松浦さんは島を出る思いを封印して時計店を継いだ。
だが時代の波は松浦さんの想像を超えたスピードで押し寄せてきた。
昭和50年代に入ると安価なクオーツ時計が普及。
時計は使い捨ての時代となった。
松浦さんは周りの島々も回って修理の注文を集めたが収入は年々減っていく。
使えるものは直して使い生活を切り詰めた。
食べ物も自ら畑で作った。
でもそれ以上に自分の腕はもはや必要とされない現実が心を重くしていた。
妻の小百合さんはいらだつ夫をそっと見守り続けた。
たまの修理が入ると物音を立てずじっと息を潜めていたという。
不遇の時代は20年続いた。
それでも松浦さんはかたくなに仕事を替えようとはしなかった。
50歳になった年。
歴史の風情ある町並みが偶然雑誌で特集された。
松浦さんの仕事もそこに取り上げられた。
するとぽつりぽつり修理の依頼が舞い込むようになった。
送られてくるのは他の時計店がさじを投げた困難な依頼ばかり。
それをこつこつ修理すると次第にうわさが広まり更に時計が集まるようになった。
60歳になった年一人の客からお礼の手紙が届いた。
何気なく読んだその文面が不思議と心にしみた。
「父の死後失われていた25年間を取り戻したような思いです」。
「私の心の時間の修復をしてもらったような気がするのです」。
島に残った選択。
時計修理を諦めなかった選択。
自分の選んだ道は絶対後悔しない。
そう意地を張って松浦さんは生きてきた。
だからやっぱし私も…
(取材者)帰りもっと速いんですか?
(取材者)失礼します。

(松浦)はい。
4月中旬風変わりな依頼が舞い込んでいた。
大阪の男性から送られてきた40年前のスイス製腕時計。
手紙には気になる言葉がつづられていた。
「直らない時は捨ててもいい」。
松浦はその真意を測りかねていた。
送られた時計の状態を見る。
だが裏蓋が開かない。
修理は絶望的。
だがなにか気になる。
御手洗の新光時計店ですが。
こんにちは。
あのね…。
電話には依頼者の妻が出た。
時計は夫が若い時から大切にしていたもの。
大阪で何軒も修理を頼んだが断られここが最後の希望だという。
自分が諦めればこの時計は死ぬ。
思いを受け止めた。
時計の持ち主は緑に囲まれたログハウスに暮らしていた。
(取材者)おはようございます。
朝早くからすいません。
お待ちしてました。
どうぞ。
(取材者)おはようございます。
天見鎭雄さん72歳。
14年前に脳卒中を患い右半身の自由を失った。
以来こわばった筋肉をほぐす毎朝2時間の体操が欠かせない。
(取材者)天見さんこれ…天見さんはもともと旅行会社の添乗員。
だが小さい頃からの夢を忘れられず23歳で脱サラしてフラワーショップを始めた。
やっと店が軌道に乗った時に買ったのがこの時計だ。
以来ずっと一緒。
夢を懸命に追い続けた日々がこの時計には刻まれている。
14年前病で体が動かなくなった頃不思議な事に時計も故障し動かなくなった。
天見さんは信じている。
「この相棒がもう一度動きだせば自分も元気になれる」。
天見さんの時計の修理に取りかかった。
止まってから14年がたつ時計。
果たして直せるかどうか。
まずは時計の機械本体をケースから取り外す。
ところがネジが回らない。
サビが至る所に生じていた。
ヤスリでドライバーの先を研ぎネジ山に深く差し込んでネジを回す。
機械本体とケースが切り離せない。
もし動力部分までサビが進んでいれば時計は生き返らない。
ようやく機械部分が外れた。
時計の心臓部ヒゲゼンマイ。
ゆがみが見つかった。
だがサビはきていない。
松浦は直せる見込みはあると踏んだ。
ここまで1時間。
通常の3倍の時間を要した。
30分後修理再開。
いよいよヒゲゼンマイの調整に入った。
直径僅か5ミリ。
松浦は息を止め集中し続ける。
慎重に微調整を続けていく。
ピンセットで押して心臓部の歯車を動かしてみる。
動いた。
だが勝負はここからだ。
天見さんの時計が止まったのは機械部分のあちこちに細かなサビが入ったため。
それを完全に落としきらなければ時計は遠からずまた止まってしまう。
飛び切りやっかいな部品にサビが入り込んでいた。
時計の針を回すための「筒カナ」がさびついて回らない。
筒カナに機械油を注ぎ油となじませる。
そうして少しずつ力を加えて回しサビを落としていく。
この時計が動くかどうかに持ち主の天見さんは人生を重ね合わせている。
「もう絶対に止まる事はない」とそう断言してこの時計を返してあげたい。
修理開始から6時間。
滑らかに回り始めた。
全ての部品が組み上がった。
天見さんの相棒。
命を取り戻した。

(主題歌)修理から1週間後。
(妻)ジャジャジャジャーン。
相棒はかつての姿で輝いていた。
わあほんまやこんな…。
え〜!へえ〜!天見さんに気力がみなぎっていく。
イエーイ。
やったやった。
うれしいです。
うれしいうれしい。
時計修理一筋の意地っ張り人生。
はいどうもありがとう。
今日もまた思いが刻まれた時計との真剣勝負が始まる。
2015/06/13(土) 00:55〜01:45
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「時計に命、意地の指先 時計職人・松浦敬一」[解][字][再]

瀬戸内海に浮かぶ小さな島に全国から壊れた時計が送られてくる。目当ては時計職人・松浦敬一の腕。「修理不能」とされた古時計が次々よみがえる。時計の名医熱き戦いに密着

詳細情報
番組内容
瀬戸内海に浮かぶ小さな島に全国から壊れた時計が送られてくる。100年前の柱時計から1本数百万円の腕時計まで。目当ては時計職人・松浦敬一の腕。メーカーからさじを投げられ、「修理不能」と宣告された時計を、この男は次々よみがえらせてきた。思い出の腕時計に再起を託す男性からの依頼。だがサビが内部まで侵入しており修理は難航。持ち主の思いに松浦は応えられるのか?時計の名医、熱き戦いに密着!
出演者
【出演】時計店店主…松浦敬一,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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