京都市左京区の下鴨神社に程近い児童養護施設です。
さまざまな事情で親が育てられない子どもたちが施設の職員と暮らしています。
幼稚園に通う6人。
小学生5人。
中学生高校生19人。
施設にいられるのは原則高校を卒業するまで。
その先は自力で生きていかなくてはなりません。
卒業したあと子どもたちの多くが居場所が分からなくなるという厳しい現実。
「子どもたちの未来を支えたい」。
中小企業のおっちゃんおばちゃんたちが6年前施設に通い始めました。
職に就いて食べていけるよう自分の会社で実習させたり相談相手になったり世話を焼いています。
これはもう自信を持って言えます。
おっちゃんおばちゃんは子どもたちの未来をあきらめへん。
児童養護施設の日々を見つめました。
春。
施設の子どもと職員たちは総出で花見に繰り出していました。
今回私たちの取材を受けるにあたって子どもたちは顔にモザイクをかけないでほしいと言いました。
子どもたちがこの施設で暮らすようになった理由はさまざまです。
親と死別した子どもや親から虐待を受けた子ども。
ネグレクトと呼ばれる子育てを親が放棄した子ども。
そうした事による心の傷が子どもの自立を難しくしている理由の一つだといいます。
人権団体の調査では施設を出たあとホームレスになったり生活保護を受けざるをえないケースも報告されています。
子どもたちの役に立てないか。
立ち上がった大人がいます。
写真スタジオを営む前川順さん55歳です。
施設の卒業写真をボランティアで撮っていた時に話を聞き6年前中小企業の仲間と施設に通い始めました。
それはないって言ったらおかしいけども。
今年1月。
月に1度の施設訪問の日。
夕食のあといつものようにおっちゃんおばちゃんたちは2時間ほどかけて子どもたちの話に耳を傾けていました。
一人の女の子が前川さんに相談を持ち掛けました。
そうですねはい。
1年前この施設にやって来ました。
母親が生活や育児に追い詰められ子育てが難しくなって施設に引き取られました。
小学校低学年の時に両親が離婚。
母親は千夏さんと4つ違いの姉を一人で育てていました。
取り戻せそうにない母と姉との暮らし。
そんな事を考えるうちに家族の写真を撮る仕事に就きたいと思うようになりました。
春休み。
千夏さんは前川さんのスタジオで4日間の実習を受ける事になりました。
おはようございます。
よろしくお願いします。
ちょうどほんまに赤ちゃんの時。
あっかわいいやん!千夏さんは家族の写真を持ってきていました。
キャンプにスキーそしてバレエ。
母親は千夏さんにさまざまな経験を積ませてくれていました。
この日前川さんのスタジオに予約を入れていたのは娘の記念写真を撮りに来た家族でした。
千夏さんは早速見よう見まねで助手の仕事をこなします。
背中をピッと伸ばしてちょっと前のめり。
あ〜ええ感じええ感じ。
(前川)はいちょっとポーズ変えます。
千夏さんは写真撮影を黙って見つめていました。
はい。
そうか。
そうですね。
お昼には妻の順子さんがみんなのお弁当を用意していました。
かわいらしい!
(前川)入れ物はな。
(笑い声)
(前川)中は?あっ中茶色い。
(笑い声)頂きます。
(順子)茶色いやろ。
(笑い声)
(順子)何や?何何?
(順子)そうか!今日したらよかった。
こんなに笑ったのは久しぶりの事でした。
おっちゃんおばちゃんの会社での実習が終わると全員が施設に集まります。
実習を終えた子どもたちによる体験報告会が開かれるのです。
報告者の中に浮かない顔をした高校3年生の男の子がいました。
焼き肉店で実習を受けた直登さんです。
なげやりな口調で報告の紙を読んでいます。
直登さんが施設に入ったのは2年前。
中学生の時に軽い知的障害があると診断されそのころから親に見捨てられたと感じるようになったといいます。
今回誘われて焼き肉店の実習に参加しましたが疎外感ばかりを感じたと作文に書きました。
「色々な事で怒られた」。
「どこにでも見下してくる人はいるなと感じた」。
報告を聞いて立ち上がった人がいました。
焼き肉店の社長楠本貞愛さんです。
…っていうのが私からの思いです。
報告会のあとも楠本さんは部屋に戻ろうとする直登さんを呼び止めます。
最初この顔でおばちゃんおいでぇな言うたのに。
緊張しいっていうかさ。
高校卒業が近づいたこの日再び直登さんは焼き肉店のちゅう房にいました。
もう一度実習させてほしいと自分から頼み込んだのです。
失礼しま〜す。
笑わんといて。
ハハハ!社長の楠本さんがちゅう房をのぞきに来ます。
(取材者)逆転劇?ええ。
直登さんは楠本さんの焼き肉店に入社する事になりました。
ところが…。
入社直後。
自転車で転び全治1か月のけがをしてしまったのです。
その1か月後。
(一同)おはようございます。
焼き肉店の朝礼に直登さんの姿がありました。
以上です。
よろしくお願い致します。
(一同)お願いします。
皆さんに挨拶がありますので。
どうぞお願いします。
真ん中来んでもええ…。
(一同)お願いします。
(拍手)お願いします。
お願いします。
直登さんの新たな一歩が踏み出されました。
お願いします。
お願いします。
写真スタジオを営む前川さん。
最近特に気にかけている女の子がいます。
大事なものです。
この日も仕事の合間に様子を見に行きました。
ようこんな雨の時…。
おおカモや!中学3年生の…小学校3年生の時シングルマザーだった母親を亡くし施設に引き取られました。
学校にもほとんど行かず限られた人以外会話も交わしません。
「たぶん」ちゃうやん。
「たぶん」はあかんで。
前川さんは思い切ってしおんさんを職業体験に連れ出す事にしました。
訪ねたのはおっちゃん仲間の一人工務店の社長が手がける建築中の家。
将来大工になるのが夢だと聞き現場を見せる事にしたのです。
三善道さんの話にしおんさんが興味を示し廃材を使ってここで一緒に工作する事になりました。
ところが次の日。
前川さんは仕事で行けなくなりました。
それでもしおんさんは1人で三さんのもとを訪ねました。
昨日初めて話したばかりの三さんと2人で小物棚を作っています。
大丈夫?そうか。
(三)だからこう切っていってず〜っと切って切り落とす感じで…。
しおんさんの表情が少しずつ変わっていきます。
(三)もう一回。
はい。
オッケー。
ほら。
(三)この作品や。
「さあ記念写真を」とカメラを取り出す三さん。
しかし実はしおんさんはカメラがとても苦手です。
(三)撮らしてもろうていい?ちょっと笑ってや。
頼むし。
いくで。
入るかな?おっ撮るよ〜。
はいこっち向いてニコッ!ニコッ!ニコッ!オッケー。
撮れた。
見てみるか?施設に来てから初めての一枚となりました。
施設に戻ったしおんさん。
園長の松浦さんが待ち構えていました。
(松浦)何?それ。
そして更に驚くべき事が起きました。
恒例の報告会でしおんさんが「自分の言葉で発表する」と言いだしたのです。
(職員)それではよろしくお願いします。
(拍手)しおんさん発表をやりきりました。
前川さんうれしくてうれしくて。
(笑い声)おっちゃんたちのちょっとおせっかいな愛情がしおんさんの背中を押しました。
一方前川さんの下で実習を受けていた千夏さん。
最終日を迎えていました。
この日は結婚式の前に新郎新婦の写真を撮る前撮り。
千夏さんにも一眼レフのカメラが手渡されました。
新郎の写真を撮っていた千夏さんが何かを思いつきます。
新婦のめいっ子に隣に立つように促しました。
なりたてほやほやの新しい家族の写真を撮ったのです。
は〜い。
かわいいかわいい。
あ〜ええわ。
あ〜ええええ。
(シャッター音)目の前で生まれる新たな家族を撮りながら自分も幸せな家族を目指したい。
おぼろげだった千夏さんの夢が確かなものになりました。
(拍手)
(前川)本当にお疲れさんでした。
(拍手)親と一緒に暮らせず京都の街なかの施設で育つ子どもたち。
幼い頃からたくさんの苦労を重ねてきた子どもたちだからこそ幸せになってほしい。
施設の職員そしておっちゃんおばちゃんの愛情を受け未来を目指します。
はいおやすみ。
(マイケル)
これは極東の国日本を訪れた2015/06/11(木) 00:10〜00:40
NHK総合1・神戸
NEXT 未来のために「おっちゃんは君らの未来をあきらめへん」[字]
親の虐待やネグレクトなどの理由から子どもたちが暮らす、児童養護施設。施設の子どもたちと、中小企業の経営者の“おっちゃん”“おばちゃん”との、心の交流を見つめる。
詳細情報
番組内容
京都では、企業経営者でつくる「中小企業家同友会」のメンバーが、児童養護施設の子どもたちを職業体験に招き、働くことの意味や人と人とのつながりを感じてもらおうという取り組みを続けている。「小さい時に苦労した子どもたちだからこそ、必ず幸せになってほしい」。熱き思いを胸に子どもたちと向き合う“おっちゃん”“おばちゃん”たちが、子どもたちの心を少しずつ動かしている。子どもたちのすばらしい笑顔を、ご覧下さい。
出演者
【語り】小雪
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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