クローズアップ現代「水族館からイルカが消える!?〜国際批判に揺れる現場〜」 2015.06.10


きょう6月10日は時の記念日。
人気者の動物たち。
将来、こうした姿を見られなくなるかもしれません。
これまで捕獲された野生のイルカを飼育・展示してきた日本の水族館。
その入手方法が海外から批判され今後はイルカを繁殖していくことが求められます。
いち早く繁殖に取り組んできた動物園も血統に偏りが生まれるなど大きな壁にぶつかっています。
生き物を身近に感じる場となっている動物園や水族館。
そのあるべき姿を探ります。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
週末にもなると親子連れなどでにぎわう動物園や水族館。
野生動物を飼育・展示する水族館や動物園は何を目的とする施設なのか。
イルカの入手方法を巡る議論が投げかけています。
日本動物園水族館協会JAZAは、先月和歌山県太地町で行われている伝統的な漁、追い込み漁を通じて捕獲したイルカの入手を禁止することを決めました。
全国各地の水族館で集客の目玉といえばイルカショー。
これまでイルカを飼育する多くの施設は、追い込み漁にイルカの入手を頼ってきたんですけれども世界動物園水族館協会から倫理規定に違反すると指摘されたことで、今後は繁殖への取り組み強化などが迫られ、大きな転機を迎えています。
しかし、イルカの購入をやめて飼育下での繁殖は難しく現在の頭数を維持していくのは厳しいと見られています。
捕獲から繁殖の方法と向かうのが欧米を中心とした世界のすう勢となる中で、イルカ漁を巡る文化的な背景から結果的に繁殖への取り組みが遅れた日本の水族館。
当たり前に続けてきたイルカショーを今後続けていけるのかという懸念の声が聞かれる一方で近年、世界ではイルカに限らず野生動物を捕まえて閉ざされたおりや水槽の中で展示することあるいはショーを行うこと自体に対する批判が強まっています。
動物園、水族館に求められる役割とは何か。
先月下された追い込み漁によるイルカの入手を断つという決定がイルカを飼育する水族館にもたらした大きな波紋。
自然保護センターや生き物を学ぶ場としての機能が重視される潮流の中で揺れる水族館の今を取材しました。
北海道小樽市にある水族館です。
入館者は年間35万人。
最大の売り物がイルカショーです。
6頭のうち、5頭は追い込み漁によって捕獲されたイルカです。
この水族館では今後、イルカをどう入手するかメドは立っていませんが今回の問題には向き合わざるをえないと考えています。
今回、問題とされた和歌山県太地町のイルカ漁。
追い込み漁と呼ばれイルカの群れを、船で入り江に追い込み、捕獲します。
日本のイルカは国内の水族館だけでなく世界16の国と地域にも輸出されてきました。
しかし6年前、その漁を批判的に描いた映画が公開され世界の環境保護団体などから反発が強まっていました。
欧米では動物愛護の観点から野生のイルカの捕獲をやめ繁殖へと、大きく転換しています。
アメリカでは原則として野生の捕獲を禁止。
現在いるイルカの7割が水族館などで繁殖させたものです。
こうした中、先月日本動物園水族館協会は追い込み漁からの入手をやめると発表したのです。
しかし、繁殖へとかじを切るのは簡単ではありません。
ノウハウや施設が整っていないからです。
小樽の水族館では9年前1頭の雌が妊娠しましたが繁殖には結び付きませんでした。
定期的にですね1か月に1回は必ず採血血を採って。
ホルモンの値などを検査し体調の管理を続けましたが死産してしまったのです。
イルカの繁殖には安心して出産できる環境を整える必要があります。
母親に過度のストレスがかからないようほかのイルカから隔離して専用のプールに移すのです。
しかし小樽の水族館にはそのプールがありません。
繁殖専用のプールを作るには多額の投資が必要です。
しかし民間経営のこの水族館では資金のメドは立っていません。
今回の決定に強く反発している水族館もあります。
追い込み漁が行われてきた地元、和歌山県太地町の施設です。
この施設では県知事の許可を受けた漁がなぜ批判されなければならないのか強い違和感を感じています。
大学などと連携しイルカの生態の研究をリードしてきたこの施設。
野生を捕獲する追い込み漁だからこそ多様なイルカの研究も可能だったといいます。
こちらのハナゴンドウという種類。
白い色をした珍しいタイプです。
ここにいるのがスジイルカ。
胴体に筋のような線が入ったスジイルカも、国内ではここで飼われている2頭だけです。
追い込み漁からのイルカの入手をやめるという今回の決定。
世界ではそもそもイルカの展示を取りやめる動きも広がっています。
オーストラリアの水族館ではイルカを閉じ込めるべきではないと、公開をやめています。
ニュージーランドのこの水族館でも7年前にイルカの展示やショーを中止。
その後、閉館しました。
イルカショーなどに厳しい目が向けられる中見せ方の模索も始まっています。
この水族館では単なる見せ物ではなく、生き物をより身近に感じてほしいとショーを行っています。
イルカの生態や特徴を、一つ一つアナウンスで伝えていきます。
この水族館ではこうした取り組みを今後、さらに推し進めなければ生き残っていけないと考えています。
今夜のゲストは、富山市ファミリーパーク園長で、日本動物園水族館協会の前会長でいらっしゃいました、山本茂行さんです。
追い込み漁で得られたイルカの入手を禁止するという決断をしたことで、水族館は大きく揺れているわけですけれども、NHKが行った調査では、大多数の水族館が、JAZAから脱退しないと、引き続き、加盟するという意向を見せているんですけれども、そうなりますと、どうやってこれからイルカを入手していくのか、繁殖へのハードルがいろいろある中で、今、水族館の危機感っていうのは、どのように見てらっしゃいますか?
かなり深刻なものだと思います。
やはり集客力をすごい持った動物ですし、ショーという展示のしかたというものも、非常に定着して、国民の皆さんにも楽しみを与えているというふうな中で、先ほどのVTRにもありましたように、本当にいばらの道になるかと思います。
繁殖に向けた体制というのは、今、どんな状況なんですか?中にはもうすでに、繁殖を行っている水族館もあるということですけれども、全体としての状況はどうなんでしょうか?
やはり個々の水族館のイルカの飼育っていう単位ではなくて、日本で飼育しているイルカ、これ全体を一つの群れと見て、その遺伝的なつながりや、あるいは性別面で、そういうものをしっかりと見て、この10年、20年先までの繁殖の計画を立てていくことがまず第一ですね。
それからいろんな飼育情報の共有、そして設備面の改善といったものは、これから、しっかりとやっていかなきゃならない問題だろうというふうに思います。
それにしても、なぜ、ここまで遅れてしまったと見てらっしゃいますか?
やはり、追い込み漁からイルカが入ってくるっていうふうなことに、やっぱり今現在ですね、それに頼ってきたという中で、出てきている問題だろうと思いますけれども、今、私、思うのは、野生動物を飼育するっていうスタンスですね、それは水産資源だろうと、本当に、トキやコウノトリや、そういった希少種であろうと、あるいは普通種といわれるような、どこにでもいる生き物であろうと、彼らは野生で生きているときは、生の営みをそこでしているわけですよね、それを飼育界に取り込んできた場合には、その生の営みを人が代わって保障してあげるというのが、やはり基本的なスタンスだと思うんですね。
そこ生の営みっていったら何かっていったら、突き詰めていけば、命を、種が、個体がつないでいくということですね。
これをやっぱり保障してあげるということが、飼育する側にとっての倫理であり、そして、動物に対する福祉であろうというふうな考え方を、しっかり今、考えていかなきゃならないだろうと思っています。
日本動物園水族館協会は昨年、動物園、水族館は命の博物館というふうな言い方をして、命をつなぐということを戦略に打ち出しました。
さらにWAZAはですね、もっと前に。
世界動物園水族館協会。
世界動物園水族館協会ですね。
2005年に、動物園、水族館のあらゆる事業は、生物多様性保全という方向に統合化していくべきであるという、戦略を出しているわけです。
JAZAも日本動物園水族館協会もそれを合意してきたと。
これは単に反対意見があるかどうかっていうんじゃなくて、地球の営みの中での人の動きを見ていくと、10年、20年、30年先は明らかに生物多様性保全ということと、持続可能な社会というものの両立ということだと思うんですね。
今、そこに大きくやっぱり、かじを切っていくターニングポイントというふうな見方をして、このいばらの道を、やっぱり突き進んでいくしかないだろうと私は思います。
そうした動物園や水族館、特に水族館の社会的役割に対して、意識が希薄だった背景っていうのはなんですか?
やはり人気があったということでしょうね。
130年の動物園、水族館の、日本では歴史がありますけれども、非常に手軽で、そして楽しみを与える存在として、動物園や水族館、今までありました。
しかし、その楽しみを与える動物園、水族館の社会的な役割を考えていった場合に、今言ったような生き物の命をつないでいくということを、保障しながら、その動物園や水族館の在り方、社会での未来の在り方も含めて考えていく必要があると思うんですよね。
もう、展示をやめた国もありますし、ショーもやめた国もありますけれども、見られなくなるんですか?
私はそうは思いません。
イルカショーっていうふうな言い方、されてますけど、いろんなものがあると思います。
しかしそれは、生物の倫理、福祉にのっとったうえで、その例えば、イルカならイルカの生態だったり、科学であったり、そういうものをしっかりと伝えていくような、例えば、マリンピアで目の、視力の話とかしてましたよね、あるいは、コミュニケーションの話とか、いろんなそういう動物の生き方、生態を知る手がかりとして、方法としてのショーというのは、意味はあると思いますし、そういう方向はこれからも続けていけるとは思います。
ただ、生命の営みをちゃんと保障するということが大前提だということですね。
大前提ですね。
さあ、いち早く野生に頼らず、繁殖を進めてきたのが、動物園ですけれども、動物園もここに来て、さまざまな課題を抱えています。
動物や自然を学ぶ場を守っていくためには、どうすればいいのか、模索をご覧ください。
希少な動物の繁殖に力を入れてきた名古屋市営の東山動植物園です。
スリランカから譲り受けたアジアゾウ。
おととし、出産させることに成功しました。
オーストラリアの動物園から来たニシローランドゴリラも2年連続で子どもが生まれました。
しかし一方で、繁殖で個体数を維持していく難しさにも直面しています。
オーストラリアの固有種コアラです。
餌のユーカリには1頭当たり年間1000万円以上かかりますが、人気があるため長年、飼育してきました。
9年前は13頭いたコアラ。
現在5頭に減っています。
その原因の一つが、血統が偏り始め思うように繁殖が進まなくなったことです。
動物園にコアラが来たのは1984年。
その2年後には日本で初めての繁殖に成功します。
それ以降、主に繁殖によって個体数を増やしてきました。
この動物園ではコアラの近親交配を避けるため、全国の施設と協力して、繁殖のペアを融通し合ってきました。
しかし取り組みを始めて25年。
血縁の近い、いわば親戚のコアラが多くなってきたといいます。
全国にいる40頭余りのコアラの血統は番号で管理されています。
同じ数字は親が同じであることを示します。
血統が偏り、繁殖相手が見つけにくくなっているのです。
活路を求めたのはオーストラリアでした。
去年、国内にはない血統のコアラを1頭譲り受けました。
しかしオーストラリアでは絶滅危惧種に指定されているため交渉には2年かかりました。
こうした中繁殖が難しい動物の飼育からは撤退する動物園も出ています。
飼育する動物の種類が全国有数の多さを誇ってきた大阪・天王寺動物園。
ピーク時には300種類以上いた動物を200種類にまで減らしています。
今後もコアラやオウサマペンギンなど人気があっても繁殖が難しい動物は飼育をやめることを決めています。
繁殖の難しい動物から撤退することで可能となった取り組みがあります。
その一つが、多くの動物を1か所に集めより自然に近い環境を再現するサバンナゾーンです。
動物にとって、ストレスの少ない環境を作るとともに、見る人にも野生に近い動物の姿を学んでもらうねらいです。
さらに絶滅のおそれがある動物の種の保存にも取り組もうとしています。
このフンボルトペンギンは日本の気候でも飼育がしやすくすでに数多くの繁殖に成功しています。
一方で、南米に生息する野生のフンボルトペンギンは現在、絶滅危惧種に指定されています。
国内で発達している繁殖技術を活用。
将来的には増やした個体を野生に帰していくことが目標です。
今のところ、こうした取り組みは入園者の増加には結び付いていませんが動物園として生き残るためには必要だと考えています。
今のコアラのように、計画的に取り組んでも、血統の偏りなどが出てきて、種の保存というのは、やっぱり国内では非常に難しいんですね。
国内の動物園だけのパイではなかなか大変です。
ですから国内の動物園全体を一つのパイとして見立てて、さらにそれを世界の動物園とのつながりの中で、どう動物を交換し合うかということが、必要になってくると思うんですね。
そのときには、例えばフンボルトペンギン、実は世界の動物園の中で、日本が一番たくさん繁殖して持っている国なんですよね。
そうしたら、そのフンボルトペンギンとコアラとの交換とかっていうふうなこととか、やっていくことが必要になってくると思います。
そうやっていくためには、例えば天王寺の取り組みのように、飼育種を減らして、供給、繁殖できるようにして、それぞれの動物の個性を出していくという取り組みも大事になってくるし、あともう一つは、世界の動物園との交渉力ですね、これをしっかりぶつけていかないと、今JAZA、非常に弱いですから、本当にぜい弱な組織なんですよね、日本の動物園水族館協会。
これを理事を送り込めるぐらいの体力をつけていくような努力もこれから必要になってくると思います。
世界動物園協会の中での発言権や、情報をちゃんと入手できるような体制も必要だということですね。
そうですね、そのためには、動物園、水族館、日本の動物園、水族館の在り方に関して、国民の皆さんもしっかりと見てもらって、自分が楽しいだけではなくて、そこにいる動物たちを、どう保障するかっていうふうなことを、命を、命のつながりをどう保障するかということを、考えてほしいと思うし、国もですね、そういう社会教育の在り方を、生物に対する保全の在り方を考える動物園、水族館に対する支援をしっかりと要望したいというふうに思っています。
自治体も、そして、企業も、体力のなくなってきたときに、どうやってそうした種の保全や、社会的役割を保障していくのかということが問われるわけですね。
市民、企業の皆さんの動物園、水族館に対する支援っていうのはぜひ、お願いしたいなというふうに思ってます。
これ、ヨーロッパのやり方がそうですね。
2015/06/10(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「水族館からイルカが消える!?〜国際批判に揺れる現場〜」[字]

水族館のショーなどで人気のイルカ。その入手方法が、倫理に反するとして海外から批判を受けている。一方で繁殖にもさまざまな課題が…。揺れる水族館・動物園を取材する。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】富山市ファミリーパーク園長…山本茂行,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】富山市ファミリーパーク園長…山本茂行,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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