労働者派遣法の改正案を巡る衆議院の委員会での審議が終了し、来週中に採決される見通しとなった。改正案は、派遣労働者と派遣先企業の労働者の待遇をできるだけそろえる「均等待遇」の原則が欠けたままとなって、派遣労働者の待遇が改善される見通しはない。

 派遣労働者の数は一時期より減ったとは言っても約111万人を数えている。働き手の間でも不平等が広がる中で、派遣労働者の処遇を改善していくことは、当事者にとって喫緊の課題であり、日本経済全体を底上げするうえでも大切な取り組みだったはずである。

 ところが、衆院委での論議は、自民と維新の協議で一部が骨抜きになった。国民と経済全体にとって重い法案の審議が果たしてこれで良いのか。法改正には参議院での審議も含めて論議する時間がある。論議を尽くしてほしい。

 労働者派遣では、雇用責任を負う派遣会社と、実際に働いている派遣先が違う。働き手にとっては、自分にあった職場をみつけるメリットがある半面、派遣先の意向で待遇が左右されたり、失職の不安にさらされたりするデメリットがある。

 改正案は、派遣会社にキャリアアップの措置を義務づけ、派遣労働者の能力を高めて待遇を良くしたり、正社員になってもらったりする道筋を描く。

 しかし、どんなに派遣労働者が能力を高めても、派遣先の対応が変わらなければ待遇は改善しない。そこで、同じような仕事をしている人の待遇を同じにする「均等待遇」の原則が必要になる。

 多様な働き方を広げるためにも、この原則は不可欠だ。原則を欠いたまま、コストカットのために派遣労働が広がることは避けるべきだ。

 維新、民主など3党が議員立法を目指していた「同一労働・同一賃金」推進法案は、あるべき方向を示していた。派遣労働者と派遣先の労働者の待遇を均等にする法律を、1年以内に作ることが規定されていたからだ。議員立法は、派遣法改正案に足りない部分を補うものとして期待されていた。

 ところが、維新と自民との協議で、そこが後退して、現行法と変わらなくなってしまった。

 改正案は、派遣会社をすべて許可制にし、責任を強化するなど評価すべき点はある。しかし、待遇が悪いままで派遣労働が増えれば、日本の雇用全体の不安定化につながる。国会は、このまま法案を成立させてはならない。