新たな安全保障関連法案を審議している国会で、改正防衛省設置法が成立した。

 防衛省内で優位に立ってきた「背広組」の内局官僚と、陸海空の「制服組」の自衛官が対等の立場となり、防衛相を横並びで補佐することになる。

 仮に安保関連法ができれば、自衛隊は地球規模で派遣され、活動内容も拡大する。自衛隊を運用する上で、制服組の発言力が増すことは間違いない。

 自衛隊の縛りを解く安保法制と、制服組の影響力の拡大が結びついた時、外交・安全保障の意思決定にどんな影響が出るのか。文民統制(シビリアンコントロール)を担保する観点から懸念がぬぐえない。

 文民統制は、軍事に対する政治の優位を意味する。戦前・戦中に軍部が独走して戦争に突き進んだことへの反省もあり、文民統制を確保する手段のひとつとして、背広組が防衛相を補佐する体制をとってきた。

 自衛隊は武力行使ができる唯一の組織であり、暴走は許されない。このため、自衛隊の活動には憲法や法律で厳しい制約が課せられてきた。

 ところが昨今の国会論議で際立っているのは、むしろ文民である政治家が軍事優先の発想で突き進み、憲法や法律を軽視する姿勢である。文民が文民統制をないがしろにすれば、民主主義は危うい縁(ふち)に立つ。

 さらに見過ごせないのは、新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に、自衛隊と米軍が平時から協議できる「同盟調整メカニズム」が盛り込まれたことの影響だ。

 自衛隊と米軍の一体化が進むなか、制服組と防衛相が直結すれば、米軍の意思はストレートに自衛隊の活動に反映されるだろう。軍事機密のベールの向こうで、国民不在の意思決定につながりかねない。

 海外で米軍の兵站(へいたん)(後方支援)にあたる時、部隊の情報は背広組を通さなくても防衛相に届く。確かに迅速な対応は可能になるが、重大な決定が、自衛隊幹部と首相、防衛相ら少数の判断に委ねられてしまう。

 特に、自衛隊の最高指揮官である首相の責任は重い。

 軍事の論理だけでなく、憲法や民主主義のあり方など幅広い観点から思慮深く判断することが、自衛隊を適切に統制する条件となる。

 最終的には、多くの国民が納得し、支持できる形で自衛隊を派遣しなければ、文民統制が機能しているとは言えない。その意味で、国会のチェック機能もいっそう重要になる。