遊ぶと学ぶは同じこと。といえば、はてと首をひねる方もいるだろう。「伝説の国語教師」と呼ばれ、一昨年に101歳で亡くなった橋本武さんの言葉である。「遊び感覚で学ぶ」ことの大切さを説いた▼神戸の灘中学・高校で長く教壇に立った。教科書を用いず、中勘助(なかかんすけ)の小説『銀の匙(さじ)』一冊を中学の3年間かけて精読する授業で知られた。ガリ版刷りの自作の教材を配る。作品に桃の節句が出てくれば、端午の節句や七夕にも説き及ぶ。大きく「横道にそれる」教え方だった▼本文に登場する駄菓子の食べ比べをしたり、凧(たこ)を作って揚げたりの授業。自分の興味を自分で引き出し、自分でどんどん掘り下げる。自分で調べて見つけたことは「一生の財産」、という信念を貫いた。お仕着せの詰め込み教育の対極だ▼そんな悠然たる学びなど無用ということだろうか。文科省が8日、全国の国立大学に通知を出した。人文社会科学系や教員養成系の学部や大学院を見直して、廃止や、より需要の多い分野への転換を考えよ、と▼理工系に力を入れ、技術革新を生み出し、成長につなげる。職業教育を強化し、実社会に即戦力を送り出す。手っ取り早く、目に見える成果を出せということか。しかし、人文系の知を軽んじていいということにはなるまい▼文理融合が必要な研究課題は数多い。生命倫理や環境倫理は好例だ。効率のみの追求は学問全体を衰弱させないか。橋本さんに至言がある。「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」
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