ストレスに応答する仕組みを分子レベル・細胞レベルで明らかにする
生物は、厳しい環境の変化に対応して細胞・組織・器官内の環境を変化させ、最終的には生物の形さえも変化させます。このような生物の内外環境応答機能を個体統合システムとして捉え、さまざまな環境シグナル情報統御機構を、生化学・分子生物学・細胞生物学・ゲノム科学を基盤とする研究手法を用い、分子レベルで解析・理解しようとしています。日常生活で私たちがさらされている紫外線、放射線、発癌物質などの様々な変異原や酸化ストレスを受容した細胞がシグナル伝達経路・遺伝子発現制御を介して、細胞増殖・分化、あるいは癌化・死を調節して新たな環境に適応するする機構、その機構破綻によって癌や脳神経変性疾患が発症する機構の解明を行っています。
真核細胞、特にヒト、マウス等の哺乳動物細胞を用いて、ほとんどの癌細胞および発生初期等の増殖の盛んな細胞において高発現されている核内原癌遺伝子c-mycの産物タンパク質c-Mycが、特異的に結合・協働するパートナータンパク質を換えることで様々な機能を発揮して細胞機能調節の中心的役割を担っている機構、またc-Mycやパートナータンパク質の異常・欠損がもたらす癌および癌以外の疾患の発症機構を解析しています。
さらに、私たちのグループでc-mycと協調する新規癌遺伝子としてクローニングしたDJ-1が内分泌かく乱物質(環境ホルモン)や酸化ストレスの標的になり、
癌だけでなく脳神経変性疾患パーキンソン病の原因遺伝子であること、正常な神経発生や精子形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきました。
DJ-1は、様々な環境ストレスにより細胞内に生じる活性酸素種(ROS)を自らが酸化されることで吸収しながらその酸化度によって他のパートナータンパク質との協働活性を変化させて応答反応を選択する"ストレスセンサー"の役割を果たしていることが示唆されてきており、細胞増殖・アポトーシスのスイッチング機構に迫ろうとしています。