慶良間諸島で潜るとおなじみ、エダサンゴにびっしりついたデバスズメダイ

「都市型ショップ」の限界

このページは、いわゆる「都市型ダイビングショップ」に非常に厳しい書き方をしています。不愉快に思う方もいらっしゃるかもしれません。以前都市型ショップについての不満を話す機会があったとき「(お店だってもうけなくちゃいけないのだから)仕方ないじゃないか」とベテランダイバーの知人に言われたことがありますが、私は必ずしもそうは考えません。不景気のあおりをくらっているのはショップだけではなくて、私たち顧客も同じ。趣味に使える限られたお金は効率よくダイビング本体に回したいと思うのは自然なことでしょう。

問題の原点は、ダイビングは高額の出費になることが多いにも関わらず、特に価格に関する十分な説明がない場合が往々にしてあること、そして客の側は「そういうものなのだ」と信じてお金を払ってしまう、ここにあると考えます。むろん、都市型ショップすべてがこういうなりふり構わない経営をしているわけではありません。

良心的な経営をしているショップほど苦しい、あるいは心あるインストラクターさんたちが消えていくといった「悪貨は良貨を駆逐する」ということがないように祈りたいのです。賢い消費者になることが良心的なショップと、そこで働くスタッフを支えることになると私は信じています。そうした形でできた信頼関係の上で、ある程度高い費用を払うことについて、異論をさしはさむつもりはありません。

都市型ショップを薦めない理由

ダイビングを始めたいと思っている人のために書いた「ダイビングをはじめよう」で少しショップの利用についてのメリット・デメリットについて触れましたが、あれからダイビングの経験も若干増え、考えていることがまとまってきたのでもう少し詳しく書いてみることにしました。

ダイバー、あるいはダイバーになりたいと思っている人の多くが都市生活者であるせいか、Cカード取得講習を実施しているとしてダイビング雑誌に掲載されている「ダイビングショップ」は都市部にあるものが大多数を占めています。しかし都市型ショップは、お店を運営していくにあたってはテナント料などの維持費がかなりかかるという大きなハンディを抱えています。

ダイビングが趣味として浸透してきたのは80年代後半以降のことのようですが、これまではダイバー人口が右肩上がりに増えることによってショップの利潤もそれなりに出ていたそうです。しかし、ダイビングは基本的にお金のかかるスポーツですから、ここ数年の不景気の影響もあるのでしょう、新たにCカードを取得してダイバーになる人の数は減少しています(大手5団体でつくる「Cカード協議会」の統計より)。その結果、つぶれていくショップもあとを絶ちません。都市型ショップの多くは存続をかけて、儲けを出すことに必死です。

都市型ショップの性格は次の4点になると思います。カテゴリーごとに私たちが陥りがちなワナを指摘しておきます。

(1)Cカードを交付してダイバーにする

問題点:特に夏場、講習生のことよりはお店がペイするかどうかを考えて詰め込みで講習を実施しがちである。

ダイビングを始めようと思ったときに、最初にするおつきあいがココです。

ここでの最大の問題は、「自分が納得できていなくても気がついたらCカードが出ていた」ということかもしれません。ワイワイとみんなで仲良く、はいいのですが、1人のインストラクターに対して講習生が7人8人という講習になると、水中にいた時間を30分とすると、単純に計算してもインストラクターが自分を見てくれている時間は、単純に平均すると3分から4分の間になってしまいます。

手間取る人はもうちょっと時間を取ってもらえるとは思うし、全員で練習する場面もありますから若干この図式化は極端かな、と思ったりもします。とはいうものの、6人で講習を受けた私がいちばんよく覚えているのは、インストラクターがほかの人を順番に見ている間、アシストでついてくれたダイブマスターと水中で「あっちむいてホイ」を延々とやったことだったりするんですよね。

そんなこんなで、私が水中でイントラからもらったのはOKサインばかりでしたが、個人的には全然OKではありませんでした。あがってきてから質問してみても「全然大丈夫だよ」としか言ってもらえません。

というわけであとは自己流。潜降から浮上までなんとか自分が納得できるダイビングができるようになるまで100本近くかかってしまいました。

また、今一緒によく潜りに行っている友だちの1人は、OW講習の時にするはずの「エア切れ」の経験をしていないと強硬に主張します。経験といっても、インストラクターが背後に回ってゆっくりバルブを閉めていくと、エアがしぶくなって最後は出なくなる、というそれだけのことなんだけど。恐らく講習でいっぱいいっぱいで一つひとつのことを覚えてないのでしょう。

(2)器材の販売、修理

問題点:客の側が十分納得しておらず、今後ダイビングを続けるかどうかもわからない段階で数10万円単位の買い物をさせる。

Cカード講習についてのダイビング雑誌に掲載された広告を見ると「器材レンタル」がCカード取得費用に含まれていることが多いですが、これはあくまで値段の張る重器材(レギュレーター、BCD)のみのことがほとんど。まず「身体に合ったものが必要だから」と強硬に主張、軽器材についてはまずレンタルでは許してもらえません。つまり、お店で買うことになります。さらに、スーツも薦められます。

いちばん気をつけたほうがいいのは重器材も最初に買うことが前提条件になっているショップがまだあること。「オーバーホールの手数料を安くしますよ」とか「スキルアップの講習を安く受けさせてあげますよ」といった付加価値をつけて器材を買わせようとしてきます。

自分も含めていろんなケースを見て感じるのはSASなど量販店でも値引きが比較的少ない器材以外で、ダイブコンピュータをのぞいた見積もり金額が30万円を超えるような場合は、どんなオイシイことを言われても、やめたほうがいいと思います。

お金のムダ。

というのも、ダイビング雑誌の付録で、定価がきちんと明記されている器材カタログを見たところ、BCDやレギュレーターはだいたい定価が10万円程度です。それにゲージやオクトパスを加えても定価で30万円くらいでおさまる場合がほとんど。それ以上になるためにはチタンを使った高いものであるとか、特殊な場合が多いようです。それでもまだ器材一式50万とか100万で売っているショップもあるということです。

とはいうものの、例えば定価で器材を買ったとしても、アフターケアが万全である、ということは付加価値として認めてあげてもよいと思います。初心者ではわかりにくいかもしれませんが、ショップのインストラクターやスタッフがどのくらい器材に詳しいのか。そういう観点から彼らと話をするということもたいせつかもしれません。

それにしても、ダイビングを始めたいと潜在的に思っている人はたくさんいるとは思うのですが、実際に潜ってみたらなかなか耳が抜けない(飛行機に乗った時に高度が変化すると耳がおかしくなる、アレと同じ)とか、やっぱり水が怖かった、とか、いろんな理由でその後潜らない、という人はそこそこいるはずです。

それなのに高いお買い物をしてしまい、ダイビング自体はもうやっていないのに、ピカピカの器材がクローゼットの中で朽ち果てていくというような人はたくさんいると思います。実際、私が一緒に講習を受けた人のうち1人はその後まったくといっていいほど潜っていません。彼女は重器材はレンタルにしたものの軽器材とドライスーツを買っています。軽器材ならちょっとした南の島への海外旅行でシュノーケリングに活用する道もありますが、ドライスーツどうなったんでしょう。

(3)エントリーレベルのダイバーにステップアップを指導する

問題点:ログブックのファイルを開けると、実際に自分の身についたのかどうかよくわからないCカードがずらりと並び、それで満足するダイバーをつくりあげる。

「ステップアップ」をうたって指導団体が発行するスペシャリティや上級ランクのカードの講習を続けさせる。しかし今の実態ではダイバーがスキルアップするというよりはショップがもうかるだけです。その結果「カード万能主義に気をつけろ」で紹介したような、実際のダイビングスキルとは関係ない「カードコレクター」が数多く生まれています。私は華道をやったことはないのですが、この話をノンダイバーの友人にしたら「お花のお免状みたいな仕組みなのね」と言われました。

私がカードを取得したショップはこのステップアップに非常に熱心でしたが、じゅうぶんな講習をしてくれたという印象がほとんどありません。たとえばボートダイビングをするためにボートSP(スペシャリティ)を取らされた話を別項に書きましたが、別の日程で取った私の仲間は事前のブリーフィングすらなく、ただのファンダイビングだったそうです。

唯一スペシャリティを感じさせたのは受けるときに強制的に購入させられるフロートの立て方をインストラクターが実演したときだけだったとか。それも、ダイビング中ではなく陸に上がって器材洗い場でのことだった。私のときも同じで、海況が悪かったため、という説明でした。

タイでダイブクルーズに参加したとき、毎回が基本的にはドリフトダイビングで最後にガイドがフロートを上げ、ボートがそれを見つけて全員をピックアップする仕組みでした。そのときにガイドと交わした会話が、フロートをあげるにはコツが必要で

「レギのエアを中に入れる」

という単純なものではないということでした。まして、実際にフロートを使用する場面というのはトラブルが発生している状態と考えられます。使ったことのないものを漂流というただでも精神的にまいっている状況で果たしてきちんと使えるのでしょうか。

今は初心者のオープンウオーターからアドバンスまで、下手するとレスキューダイバーまで続けて講習してしまうショップも多いようですが本当にそれでいいんでしょうか。

(4)ダイビングのツアーを主催する

問題点:正しい情報開示をせず、顧客を囲い込む。「ガイド」と名乗っていても、海洋生物に関して不勉強なことが多い。

ショップが主催する海外や沖縄などのツアーの値段を見ると自力で手配した場合の最低でも3、4割増し、2倍あるいはそれ以上取っていることが多いです。

ツアーにはショップのインストラクターがスタッフとしてついていくため、その人の分の人件費のほか旅行代金が上乗せになっているわけです。また、こうしたツアーは顧客の囲い込みが目的となっていることも多いようです。現地サービスも含め、よそでは潜らせない雰囲気をつくってしまう。例えば、沖縄だと同じ船に乗り合わせてショップのツアー客と一般のダイバーがポイントまで行くってなことがありますが、ショップのイントラが一般のダイバーと接触しないように(=会話しないように)腐心していた、なんて話も聞いたことがあります。自力で手配した値段を知られたらヤバイってことなんでしょうか。

また、現実問題として例えば沖縄や海外にショップのツアーで行った場合は、現地でガイドと潜ることになります。要するについて行くインストラクターはツアーコンダクターの役割を果たすだけ、というケースが多いわけ。

また、関東地方の場合、近場の伊豆に日帰りなどで潜りに行く場合でも、ショップによっては伊豆全域を週末ごとにツアーを組んでいます。毎回ポイントを変えて潜るわけですから、四季折々の海と、そこに暮らす生き物たちを知っていなければ通りいっぺんのガイディングしかできません。

海のなかに季節によってどんな生き物がいて、どういう生態なのか十分な知識を持たずに潜っているため「あの魚はなんですか?」とキラキラと目を輝かせて質問する客にあいまいだったり、適当だったり、最悪の場合ウソのことを教えたりするということになることもあります。

結局はダイビングに何を求めるか、によるのでしょう。値段が張ってもそのダイビングショップのインストラクターと潜りたいというのならそれでいいと思います。ここまで散々落としていますが、都市型ショップのイントラさんでも海洋生物に関する知識が豊富な方もたくさんいらっしゃいますしね。

ただ、客の側に選択の余地を与えないやり方には賛成できません。

東京都の消費者センターには毎年、ダイビングショップに関し、特に(2)の器材販売とに関する苦情が20件前後コンスタントに寄せられているとのことです。ショップ名まで聞き出すことはできませんでしたが、これは明らかに氷山の一角でしょう。

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