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【社会】

九条俳句 拒否から1年 正念場  平和語る自由を さいたまで市民集会

「九条俳句」問題をめぐり、大勢の市民らが出席した集会=さいたま市浦和区で

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 「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」と詠んだ女性(74)の俳句を、さいたま市の三橋(みはし)公民館が月報に掲載するのを拒否してから、間もなく一年になる。この問題を考える市民集会が十日、同市内で開かれ、市民ら約百人が参加。集団的自衛権の行使を容認した閣議決定から、安全保障関連法案の提出へと進んだ経過を振り返りながら、憲法で保障された「表現の自由」を侵害する今の日本の空気への懸念が聞かれた。 (谷岡聖史、岡本太)

 「九条俳句はなぜ排除されたのか。それは政治性と無関係ではない」

 冒頭で講演した元NHKプロデューサー、永田浩三・武蔵大教授が力を込めた。

 永田氏は二〇〇一年、旧日本軍による性暴力について、国や天皇の責任を問う番組を制作。四年後、同僚プロデューサーが「放送前に官房副長官だった安倍晋三氏らの政治介入で番組内容が改変された」と告発。NHKや安倍氏が否定する中、永田氏は公の場で、安倍氏らの政治介入があったと証言してきた。

 永田氏は「『九条俳句』は私の番組が変わったことと同じだ」と指摘。「ものが言いにくい社会であることは間違いないが、弱い立場の表現者を、公的機関が守らなくてどうするのか」と訴えた。

 また、衆院憲法審査会で憲法学者三人が集団的自衛権の行使を「違憲」と指摘したことにも触れ、「平和安全法制と言いくるめてきたうそが発覚し、潮目が変わってきた。戦争に突き進むか、そうではないのか、正念場だ」と語った。

 この日の集会は、俳句の掲載を求めてさいたま市教委への申し入れなどを行ってきた団体職員の武内暁(さとる)さん(67)らが主催。訪れた約百人は、表現の自由について考える幅広い顔ぶれがそろった。

 「公民館が政治的に中立でないと誤解される恐れがある」などと掲載拒否したさいたま市教委に、昨年十月に抗議した東京都渋谷区の「はたがや句会」の男性は「何かを規制するときの常とう句が『公正・中立』だ」と批判した。

 戦前、政府に批判的だったために弾圧を受けた新興俳句運動の流れをくむ「新俳句人連盟」の女性は「戦争に反対するという立場を貫いて、俳句をずっとつくってきた。こういう現状の不自由は一番いけない。決して屈しないで俳句をつくっていきたい」と決意を語った。

 日本公民館学会に所属する手打(てうち)明敏筑波大教授は「公民館は自由な市民の活動の場であり、政治的な学習を否定しているわけではない。市教委の(掲載拒否の)論理についても検証したい」と話した。

 「梅雨空の〜」の作者と同じ俳句教室の女性は「公民館がこだわる『公正・中立』は、私たちではなく行政を縛る言葉だ。掲載しない理由なんて何もない」と怒りを込めた。

 

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