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【政治】

自衛隊のチェック機能不十分 改正防衛省設置法成立

2015年6月10日 14時07分

 防衛省の内部部局(内局)の背広組と呼ばれる官僚(文官)が自衛官(制服組)より優位としてきた規定を改め、両者を対等とすることを柱とする改正防衛省設置法が十日午前の参院本会議で採決され、与党と維新の党などの賛成多数で可決、成立した。

 国会審議では、背広組と制服組を対等とすることで「文民統制(シビリアンコントロール)が弱体化する恐れがある」との意見が出された。こうした立場から、民主、共産両党などが採決で反対した。

 自衛隊法九条は、制服組の各幕僚長に関し、専門的助言者として防衛相を補佐すると規定しているが、改正設置法は一二条で、背広組の官房長や局長の役割を「(制服組の)統合幕僚長、陸海空各幕僚長が行う補佐と相まって防衛大臣を補佐する」と新たに加えた。背広組が政策面、制服組が軍事面から防衛相を補佐する。

 改正前の一二条は一九五四年の防衛庁・自衛隊発足当時に定められた。防衛相が制服組トップの統合幕僚長らに指示や監督を行う際、背広組の官房長、局長が「防衛大臣を補佐する」と規定、この条文が背広組優位の根拠とされた。

 近年、国連平和維持活動(PKO)などへの参加や海外も含めた災害派遣で自衛隊の活動が大幅に拡大し、部隊運用で現場の実情に詳しい制服組の意見の重要性が増したとして、防衛省は法改正に踏み切った。

 同法には防衛装備品の研究開発から調達、輸出まで一括して担当する外局「防衛装備庁」(仮称)の新設も盛り込まれている。制服組と背広組の計約千八百人体制で、今年十月にも発足する運びだ。

 武器輸出や他国との共同開発を原則解禁した「防衛装備移転三原則」(昨年四月に閣議決定)を受けた組織。武器輸出では、国内の防衛企業の海外戦略を支援したり、他国との交渉窓口も担う。防衛装備移転三原則は、相手国による武器の目的外使用や再輸出を日本の事前同意なしに行う事例を認めており、紛争地域での武器使用につながる可能性が懸念されている。

<解説> 政府は改正防衛省設置法について「政治家による自衛隊の統制に一切変わりはない」と繰り返し主張してきた。しかし、戦前に軍部が暴走した反省から定められた、政治家と文官が自衛隊を二重にチェックする文民統制の仕組みについて、弱体化させる恐れは否定できない。

 野党側は国会審議で「文官統制」の必要性を認めた過去の内閣の答弁を引用して法改正は先の大戦の反省に基づく文民統制を大きく変質させる取り組みだと批判した。

 中谷元・防衛相は文官と自衛官の立場を対等にすることで「(文官による)政策的な見地からの大臣補佐と(自衛官による)軍事専門的な見地からの大臣補佐を明確化できる」と反論するだけで、議論は深まらなかった。

 現在、安全保障関連法案が国会で審議されている。自衛隊の海外での武力行使に加え、地球規模で米軍など他国軍を支援することを可能にする内容。戦後日本が守り続けてきた専守防衛政策の転換につながるため、自衛隊の活動内容をどう限定するか国会で審議されている最中、政府は自ら自衛隊に対するチェック機能を弱めてしまう。 (中根政人)

(東京新聞)

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