安保法案、強行採決の構え 政府、与党 会期延長で一致
新たな安全保障関連法案への「違憲」批判が広がる中、政府、与党は10日、今国会の会期を延長し、衆院の採決時期を探る動きを本格化させた。自民党の谷垣禎一幹事長は安倍晋三首相と官邸で会談し、「そろそろ法案をどうしていくか、判断しなければならない」と伝えた。二階俊博総務会長は講演で「会期を延長し、結論を出すことが大事だ」と述べ、今国会で成立させるべきだとの考えを明言。政府、与党は、強行採決も辞さない構えだ。
9日、菅義偉官房長官と加藤勝信官房副長官、自民の佐藤勉国対委員長、吉田博美参院国対委員長が国会図書館でひそかに会った。
「8月10日まで国会を延長したい」。関係者によると、こう切り出す佐藤氏に吉田氏は「8月24日でも厳しい。(成立させる)自信がない」。4者会談では、今月24日に会期末を控えた国会会期延長の方針で一致したが、いつまで延長するかの結論は持ち越された。
この日夜、菅、佐藤両氏は、維新の党で安保法案の国会審議を指揮する下地幹郎元郵政民営化担当相とも会談した。名目は衆院当選の「同期会」。だが、維新の取り込みを狙う政権側が、採決に向けた環境整備に本腰を入れ始めたとの見方が広がる。
翌10日朝、谷垣氏と公明党の井上義久幹事長ら与党幹部が都内のホテルで会談し、会期延長は幹事長に一任することを決めた。これを受けて谷垣氏が首相と会い、会期延長の方針を確認した。
政府、与党が対応を急ぐ背景には、安保法案の「潮目」が変わりかねない危機感がある。
4日の衆院憲法審査会の参考人招致で、与党推薦を含む参考人の憲法学者3人全員が法案を「違憲」と明言し、野党は攻勢を強める。各種世論調査では「説明不足」とする回答が8割を占め、法案自体の賛否も反対が賛成を大きく上回っている。
このまま押し込まれ、今国会で継続審議となれば、米議会で「夏までに成就させる」と宣言した首相の面目は丸つぶれだ。9月の党総裁選の再選戦略も揺らぎかねない。来年の通常国会まで持ち越せば、夏の参院選を直撃する。
いつ採決しても、野党が反発して「強行採決」となるのは避けられない。今国会なら、支持率がたとえ急落しても、首相を脅かす有力対抗馬はおらず、党総裁選と内閣改造でのリセットが望める。
8月10日まで延期するなら、参院で1カ月の審議を見込み、衆院採決は6月末か7月上旬。政府高官は「強行採決も継続審議も、どっちを取ってもダメージはある。よりダメージが小さくて現実的なのは強行採決だ。何を言われても一気にやるしかない」と語った。
=2015/06/11付 西日本新聞朝刊=