社説:安保転換を問う 政府の反論書
毎日新聞 2015年06月11日 02時30分(最終更新 06月11日 02時48分)
政府見解は、憲法解釈変更の基本的論理は、59年の砂川事件最高裁判決と「軌を一にするものだ」とも強調している。憲法学者が違憲と指摘しても、憲法の最終的な解釈権は最高裁にあると言いたいのだろう。
だが判決は、集団的自衛権を認めたものではない。砂川判決を曲解すべきでない。
◇個別的自衛権でできる
安倍晋三首相は「切れ目のない備えを行う法整備が、日本人の命を守るために不可欠」というが、そのためになぜ集団的自衛権の行使が必要なのかという論理的な説明はない。
沖縄県・尖閣諸島の防衛は、集団的自衛権ではなく個別的自衛権にもとづくものだ。北朝鮮情勢もほとんどが個別的自衛権の解釈の範囲で対応できるのではないか。集団的自衛権の行使を認める法案を夏までに急いで成立させる必要があるというなら、なぜその代表例が中東・ホルムズ海峡での機雷掃海と邦人輸送中の米艦防護なのか、納得がいかない。
安倍政権は、個別的自衛権の拡大解釈は他国から信頼されないというが、理屈をねじ曲げて憲法を政権に都合よく解釈するほうが、よほど法体系への信頼を傷つける。
解釈変更に賛成する側からは、憲法を守って国が滅びてもいいのかといった、極端な議論も聞こえてくる。しかし、憲法の安定性を損なうことこそ、国家運営のリスクになる。まして自衛隊という実力組織の運用に関する根本原理を軽々に変更すべきではない。