社説:安保転換を問う 政府の反論書
毎日新聞 2015年06月11日 02時30分(最終更新 06月11日 02時48分)
◇やはり「違憲法案」だ
憲法違反の疑いがある法案を数の力で強引に押し通せば、国の土台が揺らぎかねない。憲法は、国家権力を縛るものだという立憲主義の精神にも反する。憲法学者3人が国会で、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法案は「憲法違反」だと指摘したことは、こんな根本的な問題を改めて突きつけている。
政府は、憲法学者の指摘に反論し、安全保障関連法案は合憲だとする見解をまとめた。「これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性および法的安定性は保たれている」としている。だが見解は、基本的に昨年7月の閣議決定文を焼き直した内容に過ぎず、論理が通っていない。
◇法体系の信頼揺るがす
見解は、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更について、憲法9条のもとでも「自衛の措置」が認められるなどとする1972年の政府見解の基本的論理を維持したまま、安全保障環境の変化を理由に「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」としていた結論について、認識を改めたと説明している。
つまり、他国への武力攻撃でも、存立危機事態など武力行使の新3要件を満たせば「わが国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として、一部、限定された場合」に集団的自衛権を行使できるとした。
同じ基本的論理をもとにしながら、安全保障環境が変わったからという理由で、結論を集団的自衛権の行使は「できない」から「できる」にひっくり返している。これで論理的整合性が保たれているとはとても言えない。
憲法98条は、憲法は国の最高法規であって、憲法に反する法律は無効だと定めている。99条は、政府や国会議員に憲法を尊重し擁護する義務を負わせている。政府が憲法解釈の変更を全くしてはいけないというわけではないが、変更は決して恣意(しい)的であってはならず、過去の憲法解釈との論理的整合性が取れていなければならない。
そうでなければ憲法は規範性を失い、国民から信頼されなくなる。論理的整合性を超えて解釈変更が必要というのなら、憲法改正を国民に問わなければならない。
中谷元防衛相は衆院の特別委員会で、将来的に安全保障環境が変われば、解釈が再変更される可能性があるとの認識を示した。憲法をあまりに軽視している。
政府が、国際法上の集団的自衛権一般ではなく、限定的な集団的自衛権の行使だから認められる、と言っていることも、うのみにできない。
集団的自衛権行使の新3要件は基準があいまいだ。限定がかかるかどうかは時の政府の裁量による。