東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

GPS捜査 厳格なルールが必要だ

 裁判所の令状なしに捜査対象の車に衛星利用測位システム(GPS)の端末をひそかに取り付ける。大阪地裁がそんな警察の捜査手法を違法と断じた。人権に関わるGPS捜査には法規制が必要だ。

 問題視されたのは、窃盗罪などに問われた男への捜査の在り方だった。広域窃盗事件を捜査していた大阪府警は半年間にわたり、男らの乗用車やバイク計十九台にGPS端末を装着し、行動を監視していたという。

 先週あった公判で大阪地裁は、プライバシー権への制約が強く、司法のコントロールが必要だったとして、GPS捜査で収集した証拠を採用しないと決定したのだ。

 長瀬敬昭裁判長は「請求すれば令状が出た可能性は高いのに、警察は取得の検討すらしておらず令状主義軽視の姿勢がある」と述べ、警察の対応を批判した。

 ところが、一月に大阪地裁であった男の共犯者の公判では、別の裁判長が全く逆の判断を示していた。GPS捜査は張り込みや尾行と比べてプライバシー侵害の程度は大きくなく、令状の取得は不要というものだった。

 司法判断の分裂をどう受け止めるべきか。警察はもちろん、捜査にとって有利な結論をよりどころにするだろう。

 GPS捜査は相手を見失っても追尾でき、目視のみの捜査とは異次元の情報収集力を発揮する。組織化、広域化する犯罪に立ち向かうのに有効な武器に違いない。

 その精度は技術革新に伴って向上する。犯罪と捜査の際限のないいたちごっこの面がある。

 しかし、だからこそ憲法が保障するプライバシー権と捜査のバランスを考えれば、警察任せでは危うい。司法によるチェックの導入というような乱用を抑止する手だてを法律で定めるのは当然だ。

 同様の捜査手法は、愛媛や兵庫、福岡などの県警で明るみに出た。警察庁はGPS捜査の内部規定を作っているというが、愛知県警に端末を設置された男性が国家賠償訴訟を起こすなど、適法性を問う動きが相次ぐ。

 米国の連邦最高裁では令状なしのGPS捜査に違憲判決が出ている。米国を含め、諸外国では令状取得や事後通告を定める立法措置が進んでいるという。

 警察の一存で運用される安易さは問題だ。居場所によって個人の思想信条や健康状態、人間関係まで把握されかねないからだ。捜査技術のハイテク化が進むほど、人権への目配りが欠かせない。

 

この記事を印刷する

PR情報