中東にある韓国大手建設会社の支社で社長を務めるAさん(46)は、夏季休暇を韓国で過ごすため6日午後に仁川国際空港に到着した。Aさんは帰国前、中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスの感染リスクがあるサウジアラビアやアラブ首長国連邦も訪問していた。サウジアラビアは韓国最初の感染者が旅行中に立ち寄った国だ。だが、Aさんは帰国後、家族と週末を過ごし、8日午後には本社に出勤して同僚ら10人余りと夜遅くまで食事を共にした。会社からは特にMERSに関する指示を受けなかったという。
多くのMERS感染者が出ている中東の各国で働く韓国企業の駐在員らが夏休みのため続々と帰国し始め、MERSのさらなる拡大に対する懸念が強まっている。政府はMERS流行の終息を目指し総力を挙げているが、万が一、中東で感染した駐在員がそのまま入国してしまえば、事態は再び悪化しかねない。こうしたことから、企業側が駐在員に健康診断や韓国入国時のMERS検査を受けさせるなど、感染拡大の防止に向けた措置を強化すべきだとの指摘も出ている。
ある大手グループ系列の建設会社は、韓国で夏休みを過ごそうとしていた中東の駐在員らに帰国禁止令を出した。MERSが広がるリスクを抑えるため、社員を現地に足止めした格好だ。
こうした状況に、現地の社員の間では不満が噴出している。サウジアラビアで勤務する大企業の30代駐在員は「半年ぶりに韓国の家族に会うため6月半ばの飛行機を予約していたが、キャンセルすることになりそうだ。MERSに感染したかどうかを調べる検査設備や医療スタッフを支援するわけでもなく、はなから韓国に戻ってくるなという会社の態度に怒りがこみ上げる」と憤りをあらわにした。また、父親が手術を控えているため帰国を予定していたものの、会社の方針で諦めることになりそうだという40代の駐在員は「家族と離れて外国で暮らす私たちを潜在的なMERS感染者として扱っているようで、やり切れない」と嘆いた。
サウジアラビアに長期派遣されている駐在員の帰国を禁じる一方、中東へ出張した韓国国内の社員に対しては出勤を認める企業もあり、社員の間で不満が高まっている。