安保法案:長谷部氏、政府見解を批判…違憲論高まる
毎日新聞 2015年06月09日 22時07分(最終更新 06月10日 00時04分)
自民党推薦の参考人として国会で安全保障関連法案を憲法違反だと指摘した長谷部恭男早稲田大大学院教授が9日、毎日新聞の取材に応じ、「(法案は)従来の政府見解の基本的枠組みでは説明がつかず、法的安定性が損なわれている」と、改めて安保法制を批判した。政府は同日、反論の見解を公表し、火消しに必死だが、憲法学者や国民の間で「安保法制は違憲だ」との批判が急速に高まっている。【樋岡徹也、日下部聡、川崎桂吾】
長谷部氏が指摘した舞台は4日の衆院憲法審査会。他の参考人2人と合わせて憲法学者3人全員が安保法制を批判し、違憲論が大きく盛り上がるきっかけとなった。
長谷部氏は、違憲との指摘に反論する9日の政府見解について、「(関連法案の)閣議決定の繰り返しで反論というものではない。これ以上説得できる論理がまったくないと思った」と厳しく論評。「(政府が)個別的自衛権とまったく本質を異にする『他国を防衛するための武力の行使』を認めてもらおうというのは基本的に無理がある。論理の枠を踏み越えている」と強調した。「(武力行使を)一見限定しているかのような(法案の)文言と実際に政府がやろうとしていることとの間に常識的には理解できない巨大な距離がある」とした。
一方、参考人の一人である小林節・慶応大名誉教授は、政府見解について「従来の説明の繰り返しで、何一つ新味はない」と語った。武力行使を認めるかどうかについて「攻撃国の意思・能力、規模などを総合的に考慮(し判断する)」という表現を問題視し、「要は『出たとこ勝負』で軍隊の運用を政府に白紙委任せよ、ということ。独裁国家の発想だ」と批判した。
同法案を巡っては3日、小沢隆一・東京慈恵医大教授らが廃案を求める声明を発表。賛同する憲法学者は当初の171人から9日現在、212人に増えている。さらに、日本を代表する憲法学者の佐藤幸治・京都大名誉教授は6日、講演で「いつまでぐだぐだ(根幹を揺るがすようなことを)言うのか」と憲法を巡る状況へのいらだちを表明した。
これに対し、集団的自衛権の行使容認を昨年提言した首相の私的懇談会「安保法制懇」のメンバーで、憲法学者の西修・駒沢大名誉教授は9日、取材に「国連憲章上、集団的自衛権は固有の権利で、国家存立のための自然権と位置づけられている。憲法は自衛権の行使を否定していない。国連加盟時に何の条件もついていない」と合憲論を展開。違憲論が強まっている現状には「合憲派は少なからずいる。憲法論議は多数決ではない。論理の整合性が大事だ」と話した。