帰りの電車に乗っていたら、はた、と気がついたとき周囲を取り囲んでいた人々が微妙に生暖かかった。
雰囲気が温く、なんだか馴れ馴れしいのだ。
異世界に飛んだら多分、こんな気分になるのだろうなと思う。
何にも変わらないように見せて、脳内ラジオのチューナーがこっそり別の周波数を選んでいる。
前も、そんな体験があった。10年くらい前の、夏のこと。
あのときは気づかなかったけど、多分私はあの日異世界に飛んだのだ。
なぜならその日から、世界は敵意と悪意に満ちた汚いものへと変貌していったからだ。
多くの人が、変わってしまった。
そして今日もまた変わったと思ったら、先程家から出たらいつも通りの空気だった。
絶望の中、なぜかとてもほっとした。