産経新聞は2月23日付朝刊の「正論」欄で、元朝日新聞記者の植村隆氏が慰安婦報道への批判論者に名誉を棄損されたとして起こした訴訟などを取り上げた現代史家・秦郁彦氏の論考を掲載した。その中で「植村氏は訴訟までの約1年、被告ばかりか日本メディアの取材を拒否し、手記も公表していない」と記したのは誤りだったとして、6月8日付朝刊におわび記事を掲載した。論考はニュースサイト「産経ニュース」にも掲載されていたが、削除された。
事実誤認があったのは、秦氏が寄稿した「大弁護団抱える植村訴訟の争点」と題する論考。植村氏が1月19日、文藝春秋と東京基督教大の西岡力教授に対して東京地裁で提起した訴訟の経緯に言及し、植村氏側の主張を批判的に論じていた。
産経新聞はおわび記事の中で、植村氏は複数の日本のメディアに応じ、手記も発表していたと説明。一方で、植村氏が産経新聞のインタビューには応じていないことも付け加えた。植村氏は昨年12月に東京新聞やTBSのインタビューに応じていたほか、月刊誌「文藝春秋」2015年新年号や「世界」同年2月号に手記を寄せていた(→【GoHooトピックス】慰安婦報道の元朝日記者「私は捏造記者ではない」 文藝春秋に手記)。
秦氏は、故吉田清治氏のいわゆる「慰安婦狩り」証言の信ぴょう性に疑義を呈し、「慰安婦と戦場の性」を出版するなど、慰安婦問題の研究者としても知られ、フジサンケイグループから西岡教授とともに今年度の第30回正論大賞を受賞していた。
【正論】大弁護団抱える植村訴訟の争点(現代史家・秦郁彦)
…(略)…植村氏は13年11月に神戸の女子大教授に内定し、翌年3月に朝日を退職したが、『週刊文春』記事等を根拠に各方面からバッシングが始まり内定を取り消された。ついで本人、家族と非常勤講師を務めていた北星学園大学にも脅迫やいやがらせが繰り返される。
植村氏は中山武敏弁護士(のち弁護団長)の勧めもあり「原告とその家族をいわれのない人権侵害から救済し、保護する」には「“捏造記者”というレッテルを司法手続きを通して取り除くほかない」(訴状)と主張している。それに対し、被告側は「十分な根拠をもとに批判をした。言論には言論をもって対応すべき」だし、「脅迫を教唆するようなことは書いていない」と反論した。
確かに植村氏は訴訟までの約1年、被告ばかりか日本メディアの取材を拒否し、手記も公表していない代わり、米韓の新聞や外国特派員協会の会見には登場して、批判の対象にされた1991年の朝鮮人慰安婦第1号に関する記事の不備は誤用や混同で、意図的な捏造ではない、と釈明していた。
誤用か捏造かは裁判所の判断に属すが、いずれにせよ被告の言論活動と脅迫の間に相当因果関係が成立するかはきわめて疑わしい。…(以下、略)産経新聞2015年2月23日付朝刊
産経新聞2015年6月8日付朝刊7面
- (初稿:2015年6月8日 18:07)
- (追記:2015年6月8日 20:55)植村隆氏が取材に応じていたメディアとして東京新聞を追記しました。