コラム【夕映え】
差別する側の「にやけ顔」
米国の伝説的な黒人指導者の生涯を描いたスパイク・リー監督の「マルコムX」は記憶に残る映画だ。私が入社した1992年の作品で、米国史の先生が解説する上映会を取材したのを思い出す。
黒人によるイスラム組織のスポークスマンとして活動したマルコムXは、白人社会を批判する過激な言動で注目された。組織を離れ、メッカに巡礼後、人種を超えたイスラム教徒の友愛に目覚め、新たな活動を始めようとしていた。その矢先の年、ニューヨークで暗殺された。
映画の中で特に嫌なシーンとして覚えているのは、マルコムXが出先から自宅の妻に電話をかける場面だ。
「君に会いたい」
「離れていても一緒よ」
死の危険が迫るなかでの切ない会話。だが、電話はFBIの白人捜査員に盗聴されている。彼らは冗談を言いながら、にやにやと笑い顔を浮かべる。「取るに足りない価値しか持たない連中が、何をマジな会話をしているんだ」とでも言いたげに。
最近、同じような顔を見た。5月31日の日曜日、名古屋市の繁華街・栄で「嫌韓」を叫んだデモだ。
「朝鮮人のいない明るい街づくりを」。差別をあおる「ヘイトスピーチ」が繰り返される。参加者の顔は、やはり、にやついている。
映画が描いた時代から半世紀を経た今、日本で起きている現実だ。(黄論説委員)
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