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MERS 知っておくべき6つの事

6月8日 20時58分

田中陽子記者

韓国で、重い肺炎などを引き起こす「MERSコロナウイルス」に感染した患者が増え続けています。
6月8日正午時点の感染者は87人。死者も6人に上っています。
韓国に出張や旅行で行くという人も多いと思いますが、大丈夫なのでしょうか。日本にウイルスが侵入するおそれはあるのでしょうか。
科学文化部の田中陽子記者が解説します。

1 そもそも、どんなウイルス?

MERSコロナウイルスは3年前に見つかった新型のウイルスです。サウジアラビアの病院に入院した男性患者から初めて検出されました。

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12年前に中国などで感染が広がり、800人近くが死亡した新型肺炎「SARS」と同じコロナウイルスの仲間ですが、まだ未知の部分も多いウイルスです。電子顕微鏡で見たときのウイルスの姿は、太陽とその周囲で光るコロナに似ていて、それがコロナウイルスという名前の由来と言われています。

もともと動物の体内にいたウイルスがヒトにも感染するように変異したとみられていますが、どのようなルートを通じて、動物からヒトに感染を始めたのか、詳しいことは分かっていません。中東地域では、ヒトコブラクダの世話をしたり、乳を飲んだりした人が感染していることなどから、ヒトコブラクダがMERSコロナウイルスを媒介する動物の一種ではないかと考えられています。

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ちなみに、日本にも動物園などにヒトコブラクダが25頭ほどいるので検査しましたが、MERSウイルスは見つかっていません。また、フタコブラクダからウイルスが検出されたことはありません。

2 どんな症状が?

MERSコロナウイルスに感染するルートは主に2つ。

1 ウイルスを持つヒトコブラクダを触ったり、生の乳を飲んだりすること。
2 感染した人と一緒にいて、せきなどに含まれるウイルスを吸い込んだりすること。

このウイルスに感染すると、2週間ほどの間に、発熱やせき、息切れなどの症状が現れ、多くの場合、肺炎を起こして呼吸困難に陥ります。特に、糖尿病など慢性的な病気を抱えている人や高齢者が重症化しやすく、致死率は40%程度にもなるとみられています。

エボラウイルスほどではありませんが、かなり高い致死率です。

予防のためのワクチンはなく、治療法も確立されていません。このため、治療は、患者の免疫がウイルスを攻撃できるようになるまで、体力を維持し、人工呼吸器などで呼吸を助ける「支持療法」が柱になります。

3 世界の感染状況は?

実は、世界的に見ると、MERSの流行は去年4月に大きなピークがあったあと、“いったん収まっている”状況です。

3年前にウイルスが発見されてから今月6日まで確認された感染者は、中東を中心に1190人。うち444人が死亡しています。一連の流行の中で患者が最も急激に増えたのは去年の春。このときは中東地域で、4月の1か月間で350人以上の患者が確認される事態になりました。ただ、その後、患者数の報告は急激に減り、多くても1週間に十数人程度の状況が続いていたのです。

MERSコロナウイルスに詳しい専門家によりますと、去年4月の患者急増の背景には、通称「ラクダ祭り」と呼ばれる中東最大規模の祭りがあるとみられているそうです。

この祭りはサウジアラビアで毎年2月に開かれる「ジャナドリア祭」で、メインイベントのラクダレースを楽しみに多くの人たちが集まります。

因果関係は証明されていませんが、去年はこの祭りのあと患者が増え始め、4月に急増したことから、専門家たちは、この祭りが流行に影響したのではないかとみています。また、ことしは2月から4月にかけても患者数が少ない状態が続きましたが1月にサウジアラビアのアブドラ国王が亡くなり、祭りが中止になったためではないかという見方もあるということです。

4 韓国の感染の広がりは?

こうしたなか、韓国では8日までに87人の感染者が報告され、6人が死亡。中東地域以外では最も大きい規模の感染拡大となっています。

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発端は先月20日、サウジアラビアなどの中東地域で農業関係の仕事をして帰国した68歳の男性の感染が初めて確認されたことでした。

この男性は、症状が出てから9日間診断が確定せず、4つの医療機関で診察を受けたり、入院したりしていました。

この間、適切な院内感染対策が取られなかったこともあり、同じ病室の患者やその家族、医療スタッフなどが2次感染していったのです。

さらに、2次感染した患者が転院した先の病院でも院内感染が起き、3次感染が確認されてしまいました。

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感染の広がりが少し急なので、ウイルスが変異を起こして感染力が強くなったのではないかという懸念も持たれていましたが、6日、遺伝子解析の結果、中東で流行しているウイルス株とほぼ同じだったと報告されました。

 

5 日本に侵入する可能性は?

隣国の韓国で増え続ける感染者。では、日本にもMERSウイルスが侵入したり、韓国を旅行して感染したりすることがあるのでしょうか。

専門家の答えは「現時点では考えにくい」です。

韓国では、患者数は増えていますが、
▽感染が主に医療機関内にとどまっていること、
▽誰から誰に感染したのかという感染のつながりが分かっていること、
▽感染者に接触した人は“隔離”され、健康状態の確認が行われていること、
がその理由だということです。

つまり、韓国内では、MERSコロナウイルスがどこにいるのか把握できていて、現時点では、いわゆる“封じ込めができている”状況になります。

このため、専門家は、韓国に旅行に行ってソウル市内で感染したり、ウイルスが韓国から国内に入ってくる可能性は極めて低く、一般の人たちが不安を感じる必要はないとしています。

そのうえで、韓国からではなく、ヒトコブラクダが生息し、MERSに感染した患者が把握できていない可能性がある中東地域からウイルスが持ち込まれるリスクに注意を払う必要があるとしています。

ただし、この状況は変わる可能性があります。

韓国で、MERSの患者と接触のなかった人が感染したと確認され、ウイルスの感染のつながりが途切れた場合です。

こうしたケースが増えると、韓国内でウイルスがどこにいるのか分からなくなります。街なかにいてウイルスに感染してしまう「市中感染」という可能性が出てくるので注意が必要になるのです。

韓国の一部の報道では、感染者との接触が確認されていない住民が一次検査で陽性反応が出たという情報もあり、状況を注意深く見ていく必要があります。

6 私たちができる注意は?

それでは、私たち自身が注意できることはあるのでしょうか。

MERSに詳しい国立感染症研究所の松山州徳室長は「韓国に出張や旅行で行く場合には、感染者が出た病院が公表されているので、そこに出入りするのは避けたほうがよいと思う。渡航する際は、MERSコロナウイルスだけでなく、さまざまな感染症から身を守り、健康管理に努める意味でも、こまめな手洗いやマスクなど一般的な感染対策を心がけてほしい」と話しています。

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手洗いやマスクといった感染予防策は、MERSだけでなく、さまざまな感染症を防ぐことにつながります。

私たちは、冬場はインフルエンザなど、さまざまな感染症が流行することもあり、手洗いやマスク、せきやくしゃみが出るときの「せきエチケット」に気を配りますが、夏場はおろそかになりがちです。改めて心がけることが必要だということです。


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