――中国はその辺を見越しているわけですね。ただ、そんな事態になれば、日米同盟って何なのかということになりませんか。同盟国間での米国の威信はますます低下し、世界は大混乱になりかねない。
その通りです。
――その時に戦争が起こってしまう?
国際秩序を維持するためには理想主義と現実主義という2つの外交上の考え方があります。理想主義とは、民主主義や経済的な自由主義を広めれば、米国の価値観に基づく国際秩序を建設できるという考え方で、冷戦後の米国はこの理想主義に立って、テロとの戦いや中東の民主化、経済のグローバル化を推進し、そして失敗した。一方、現実主義はイデオロギーではなく、パワーの均衡によってしか国際秩序は成り立たないという冷徹な考え方です。オバマ大統領は理想主義から現実主義に舵切りしたいが、うまくいっていない。なぜなら、現実主義を貫く大前提として、独裁国家であろうとなんだろうと、国内が統合されていることが絶対条件になるからです。ところが、今の中東はそれぞれの国家が硬いビリヤードのボールではなく、腐ったトマトのような状態ですから、パワーの均衡など目指すことができない。イラク戦争という理想主義の暴力によって破壊された中東の秩序は、もはや現実主義をもってしても回復し得ないのです。