昨年9月のアジア大会(韓国・仁川)でカメラを盗んだとして、仁川地裁から有罪判決を受けた元競泳日本代表の冨田尚弥(26)が4日、名古屋市内で記者会見を開き、控訴しない意向を示した。「盗んではいないが、潔白証明は断念」というすっきりしない幕引きとなったが、日本スポーツ界を揺るがした“仁川カメラ事件”とは一体なんだったのか? 本紙は無償で冨田をサポートし続けた國田武二郎弁護士を直撃。「真実は別にある」と強調するが…。

「これ以上やっても意味がない。控訴は断念します」。有罪判決が出た5月28日から1週間、冨田が考え抜いた結果を明らかにした。「良くはないけど僕の話を聞いてくれないし、こちらに立証責任があるかのように言われ無理がある」と判断した。國田弁護士は会見直前まで冨田に控訴することを説得したが「彼に相当な絶望感があった」(國田弁護士)と意思は変わらなかった。

「控訴しないこと=有罪」を受け入れた形になる。アジア大会から帰国後は無実を主張してきただけに、“濡れぎぬ”を着せられたままのうやむやな幕引きには納得できないはず。一方で「(控訴断念は)そりゃ、もともとやっているからじゃないの」(ある競技団体関係者)という声はスポーツ界に限らず多い。真相はやはり「やっていた」ということなのか?

 國田弁護士は「本当の真実は別にあります。訴訟法上こそ控訴断念ということになるが、認めたことにはならない。日本にも、無実でも事情があって裁判を続けられない人はたくさんいる」。“第三の男”の関与を主張し続けたこれまで通り、冨田の無実を強調した。

 ただ、たとえ真実が別にあったとしても控訴断念という事実は重い。

 今後の人生への影響は計り知れず、競技復帰についても「給料もない、サポートもないので難しいと思う」(冨田)。日本水連は冨田に来年3月末までの選手登録停止処分を科しており、その後のリオ五輪代表選考会には出場できる余地はあるが、泉正文専務理事(66)は「連盟としての判断は変わらない。復帰するかは彼の判断次第」と話す。支援者を募ることは簡単ではなく、別の道を歩むにしても今回の事件が常についてまわる。

 名誉回復の機会には「彼のエネルギー次第。やはり悔しいという思いが起きれば、こちらは再審という方策を考えます」(國田弁護士)。しかしその場合には“第三の男”の存在を明確にすること、さらに最新技術で防犯ビデオ上の人物が冨田ではないことなどを冨田側で立証することが必要という。再審への壁も高いだけに、事態に変化は起こりそうにない。

 実は、國田弁護士は韓国での裁判には多額の費用がかかることから、渡航費を含めて報酬なしで活動してきた。「私はボランティアですよ。でも一人の若者が無実を訴えているなら、信じてやらないといけない」

 信じてサポートしてきた側にとってはなんとも切ない結果となったものの、信じられない側にとっては「やはり…」の感を抱かせる幕引き。事件発生当初から冨田は発言が二転三転するなど不可解な行動があったが、それがこのうやむやな結末を物語っていたのかもしれない。