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世紀の大発見、謎の騎馬民族「スキタイ」の黄金の埋葬品

2015/6/7 3:30
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ナショナルジオグラフィック日本版

バケツ型の器が2つ、杯3つ、指輪1つ、首輪2つ、腕輪1つ。ロシア南部にあるスキタイ人の墳丘墓から発見された純金の埋蔵品の数々だ(Photograph by Andrei Belinsky)
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バケツ型の器が2つ、杯3つ、指輪1つ、首輪2つ、腕輪1つ。ロシア南部にあるスキタイ人の墳丘墓から発見された純金の埋蔵品の数々だ(Photograph by Andrei Belinsky)

 ユーラシア大陸の広大な草原をおよそ千年間にわたって支配した騎馬民族。彼らは古代ギリシャ人やペルシャ人を恐怖で震え上がらせたが、都市や住居の痕跡は一切存在せず、今はただモンゴルから黒海にかけて広がる草原に「クルガン」と呼ばれる墳丘墓が点々と残るのみ――。

 ロシア南部のカフカス山脈にあるそのクルガンから、このほど興味深い発見が報告された。見つかったのは、騎馬民族のなかでもギリシャの歴史家ヘロドトスがさまざまな偉業と麻薬の儀式について書き残した、勇猛にして謎の人々、スキタイの黄金の埋葬品だ。

 「これは世紀の大発見です。これまでに一帯で発見された中でも、とりわけ素晴らしい逸品です」。ドイツ、ベルリンにあるプロイセン文化財団の考古学者アントン・ガス氏はそう語る。

 埋蔵品が最初に発見されたのは2013年夏のことだった。略奪を防ぐため、これまで情報が伏せられていたのだ。ロシア、スタブロポリの考古学者アンドレイ・ベリンスキー氏は当時、送電線を通す前の調査の一環として、「シンギリェフスコエ-2(Sengileevskoe-2)」と名付けられたクルガンの発掘を行っていた。

 発掘を始めた当初は、この場所からはたいしたものは見つからないだろうと考えられていた。クルガンにはすでに略奪された痕跡があったからだ。ところが作業開始から数週間後、発掘チームはぶ厚い粘土層に突き当たった。さらに掘り進めると、その下から平たい幅広の石で囲まれた長方形の部屋が見つかった。そこに鎮座していたのは、略奪者の目を逃れた埋葬品の数々――2400年前にこの墓に安置された黄金の宝物だった。

 バケツ型の黄金の器が2つ、逆さまに伏せられていた。その中には、黄金の杯が3つ、ずしりと重たい指輪が1つ、首輪2つ、腕輪1つが入っていた。保存状態の良い黄金の埋葬品の数々は、合わせて3.2キロもの重量があった。

 「まったくの予想外でした。こんなものが見つかるとは夢にも思っていなかったのです」とベリンスキー氏は言う。

スキタイ人の器に施された見事な意匠。怒り狂った夫が、不実な妻が産んだ子供を殺す場面ではないかとも言われる(Photograph by Andrei Belinsky)
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スキタイ人の器に施された見事な意匠。怒り狂った夫が、不実な妻が産んだ子供を殺す場面ではないかとも言われる(Photograph by Andrei Belinsky)

 黄金の器に残された黒い物質の分析をベリンスキー氏がスタブロポリ近郊の犯罪学者に依頼すると、そこにはアヘンと大麻が含まれていることが判明した。これは古代ギリシャの歴史学者ヘロドトスが記録に残した内容と一致する。ヘロドトスは、スキタイ人が植物を燃やして発生させる煙が「ギリシャの蒸し風呂とは比べ物にならないほど強烈なもので…その煙で興奮した人々は、大きな叫び声を上げる」と書いている。

 ねっとりとした黒い物質が付着していたのが器の内側だったことから、スキタイ人は器の中で強力なアヘン入りの液体を調合して飲み、そばで大麻を燃やしていたのだろうと考えられる。「アヘンと大麻が同時に使われていたことは間違いありません」とガスは言う。

■殺人の記録か、権力争いの象徴か

 黄金の器から黒い物質と汚れを取り除くと、施された装飾が一層輝きを増した。一方の器には、若い戦士を殺そうとするあごひげを生やした老人の姿がかたどられている。もう一方の器に描かれているのは、馬を引き裂くグリフォン――鷲の頭とライオンの胴をもつ神話的な生物と、荒涼とした土地に立つ牡鹿で、これはスキタイの冥界ではないかとベリンスキー氏は考えている。

 黄金の器の意匠に含まれる情報は、考古学者にとっては興味が尽きないものだ。戦士の履いている靴から髪型まで、その描写は目を見張るほど生き生きとしている。「スキタイ人の衣服や武器がこれほど詳しく描かれているものは見たことがありません。衣服がどうやって縫われているのかまでわかるほどです」とベリンスキー氏は言う。

 ガス氏によると、若い戦士を殺す老人の図は、ヘロドトスが記録に残している「私生児戦争」に関連していると考えられるという。スキタイ人は28年間にわたって隣国のペルシャと戦争をしていたとヘロドトスは記している。スキタイ人がようやく帰国すると、自宅の天幕には思わぬ侵入者がいた。取り残された妻と奴隷との間に生まれた、混血の子供たちだ。その結果巻き起こった流血の惨事は、黄金の器に残すほど重大な出来事だったのだろう。

 一方、ベリンスキー氏はこの図はむしろ比喩的なもので、スキタイ人の王あるいは支配者が死んだ後に起きた権力争いの象徴だろうと考えている。「王が死に、国が混乱します。王の死によって精神世界が乱され、新たな秩序の確立が必要となったのです」

 主な墳丘墓の発掘は2014年秋に終了した。新たな埋葬品は見つからなかったが、ガス氏とベリンスキー氏は、墳丘墓の周囲に連なる溝や、土を円状に盛り上げた構造物を発見した。これらは巨大な儀式用施設の一部だった可能性がある。

 不安定な政治状況のせいで発掘プロジェクトは現在中断されているが、関係者はじきに作業が再開されることを期待している。ガス氏は語る。「まるで事件を捜査する刑事のような気分です。全貌を解明できるのはまだ先です。とにかく掘り続けなければなりません」

(文 Andrew Curry、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015年5月28日付]

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