好調な出だしを見せたスプラトゥーン。
任天堂が放った、WiiUの4対4人対戦型のサードパーソン・シューティングゲーム(以下TPS)「スプラトゥーン」が好調だ。
Wii U プレミアムセット shiro (WUP-S-WAFC)
- 出版社/メーカー: 任天堂
- 発売日: 2013/07/13
- メディア: Video Game
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メディアクリエイトの今週の売り上げランキングトップ10によると
1 Wii U Splatoon (スプラトゥーン)任天堂 144,818本
2 3DS 初音ミク Project mirai でらっくす セガゲームス 41,442本
3 PS4 ウィッチャー3 ワイルドハント スパイク・チュンソフト 22,454本
4 Vita Minecraft: PlayStation Vita Edition SCE 12,449本
5 Wii U マリオカート8(同梱版含む)任天堂 11,654本
6 Vita クロスアンジュ 天使と竜の輪舞tr. バンダイナムコエンターテインメント 11,215本
7 3DS ダウンタウン熱血時代劇 アークシステムワークス 9,444本
8 3DS パズル&ドラゴンズ スーパーマリオブラザーズ エディション ガンホー・オンライン・エンターテイメント 8,920本
9 3DS 暗殺教室 殺せんせー大包囲網!! バンダイナムコゲームス 6,620本
10 Vita 信長の野望・創造 with パワーアップキット コーエーテクモゲームス 6,360本
と、2位を10万本以上突き放してトップの座を獲得している。
2014年のE3でスプラトゥーンが衝撃的なお披露目をされた時から、ある程度この状況は予想されていた。なんといっても、任天堂が放つTPSなのだ。
マルチプレイメインのTPSやFPSといえば、基本的に戦場が舞台の殺し合いでしかなかったこの世界に、任天堂は独自の視点で解釈を変更し、乗り込んできた。
主人公たちは塗料を放つ「ブキ」を持ち、勝敗を左右するのはキル数などではなく、あくまで色の塗り合いの末に、どちらが多く「ナワバリ」を獲得したかとか、「ガチエリア」を死守できたかという、従来からあったルールをマイルドに変えただけなのだが、その味付け具合が絶妙で、その辺りは流石任天堂だなと思わざるをえない。
まだまだ発売からまもなく、モードやブキの数が少ないので、スプラトゥーンのゲームとしての完成形がどうなるかは現時点では見えてこない。今後のアップデート次第で評価は変わってくるかもしれないが、今は「これがマルチプレイTPSに任天堂が出した答えだ」とさえ言える、会心の出来となっている。
では、このスプラトゥーンの好調ぶりが、最近苦しんでいる任天堂を蘇らせる事になるのか?というと、個人的にはそんなに簡単な話ではないと思っている。
かつては一強皆弱だったゲーム業界。
かつて、ゲーム業界は一強皆弱の世界だった。
ファミコン・スーパーファミコンの頃は任天堂がその「一強」の座につき、その後32ビットゲーム機戦争が勃発すると、ソニーとセガの激しいつばぜり合いの末、PlayStationが「一強」に座った。そして、その時代はPlayStation2の時代が終わるまで続くことになる。
この頃は、ハードウェアを赤字で売っていたとしても、ソフトウェアの売上と、内部パーツのシュリンク等でいずれコスダウンを実現し、数年かけて利益を上げていくビジネスモデルだった。
だが、それは数百万本売れるタイトルを抱え、数年間市場を独占できるという一強ハードだからこそ出来た、かなり強引なガリバー商法だった。
しかし、マイクロソフトがゲーム業界に参入すると、少しずつ風向きが変わり始める。
まず、マイクロソフトはPCの開発環境をコンソールに持ち込んだ。そのことで、海外のPCゲームを作っていたソフトハウスが、容易にコンソール市場に参入できるようになった。このことにより、PCとコンソール、そして国内市場とワールドワイド市場の垣根が低くなっていった。
そして、ネットワークサービスとしてのXboxLiveを有料で提供した。もちろん、無料プランもあるのだが、マルチプレイをしたかったら有料のゴールド会員にならざるを得ない。この有料プランの導入が、マイクロソフトのゲーム部門の収益を大いに押し上げた。
このマイクロソフトのビジネスモデルがゲーム業界に与えた影響は、かなり大きいものだった。
現在ソニーがPS4に同様の有料プランを導入し、PS4のハードウェアの売上が好調なのも影響して、ゲーム部門が絶好調の状態にあることを考えても、この「マルチプレイをするための有料プラン」というのは、現状のゲームビジネスにおいて大きな武器であり、収益源であると言えるだろう。
だが、それが任天堂には存在しないのだ。
ソニーのPS3時代と同じ過ちを犯している任天堂。
ソニーは、PS3時代はPlayStation Networkにおけるマルチプレイなどのサービスを無料で提供していた。それは、一見XboxLiveに対するアドバンテージのように思えた。だが、収益という面から言えば逆効果だった。
ハードウェア普及台数は、PS3が1年先行していたXbox360と同じ程度の、8000万台クラスまで行った事を考えると決して失敗とは言えない。だが収益的には、2006年にPS3を発売してから、かなり長い間苦戦し続けたソニーにとって、PlayStation Networkの無料提供と言うのは、あまりいい施策だったとはいえないだろう。
2010年になって、PlayStationPlusという有料サービスを導入したが、結局マルチプレイは無料会員でもプレイ可能であったため、ソニーの収益に貢献できるほど会員数が増えるのは、マルチプレイに有料会員が必須となったPS4発売の2013年の海外ローンチまで待たねばならなかった。
任天堂も、Wiiの時代からネットワークに関しては料金を取ろうとしてはいない。スプラトゥーンも、マルチプレイをするのは無料である。だが、これではソニーがPS3で犯した間違いをなぞっているだけではないだろうか。
だが、これからWiiUに有料の接続プランを導入するのも、ソニーがPS3時代にPlayStationPlusを導入した時のように、劇的な効果をもたらすのではなく、むしろ「任天堂がマルチプレイでカネを取るようになった」というイメージを与えるだけの、逆効果な施策になってしまう可能性が高い。
つまり、現世代では任天堂がマルチプレイを収益源にするのは、実質的には不可能だということになる。
もはや、今は一強皆弱時代のビジネススタイルは通用しない。任天堂が、自社ハードで強力な自社タイトルを投入し、ユーザーを獲得しようとしているやり方が、既に時代遅れであるのは、WiiUのローンチからの現状を見れば明らかだ。
ワールドワイドで数百万〜数千万本売れるタイトルを、複数のハードウェアでマルチ提供したいのが、世界中のソフトハウスの本音なのだ。だが、WiiUはその特徴的なギミックや、実質的に一世代遅れているスペック等から、マルチタイトルの提供先から外れてしまうことが多い。
任天堂が復活を果たすのは、おそらく次世代。
個人的には、WiiUはもう袋小路に迷い込んでしまっていると感じている。
任天堂は確かに優れたゲームを次々と輩出出来る素晴らしいゲームメーカーではあるが、だからといって、スプラトゥーンを始めとする任天堂タイトルだけで、いまのWiiUの置かれた、業界での構造的な問題点を解決できるとは思えないのだ。
任天堂は、既に全く新しいコンセプトによる新ハード「NX(仮称)」の開発を発表している。
おそらく、この「NX」では、XboxLiveやPlayStation Plusの様な、有料の会員制サービスが導入されると思われる。別記事だがITmediaの記事には以下のように書かれており…
任天堂の岩田聡社長は3月17日、新ゲーム機プラットフォーム「NX」(開発コードネーム)の開発を進めていることを明らかにした。来年発表するという。
任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)の資本・業務提携発表会で明らかにした。
(中略)
詳細は明らかにしなかったが、両社で多様なデバイスに対応した会員制サービスを今秋開始を目指して共同開発することを発表しており、これが「NX」にも対応するという。両社は提携を通じ、「スマートデバイスとゲーム専用機の間に架け橋を架けていく」としている。
これを無料で提供するとはちょっと考えにくいので、これが次世代の新たな任天堂の収益源になっていくのではないかと考えている。
任天堂がかつての優良企業だった時代のような利益をあげるためには、この「NX」の新しいビジネスモデルが成功し、一強皆弱時代のビジネスモデルから脱却しなければならない。
それが果たしてうまくいくのかどうかはわからない。
ただ、一つだけ言えるのは、今のゲーム業界の構図が、スプラトゥーンのような素晴らしいタイトルひとつによって、任天堂が蘇えるという単純な話が成り立たなくなっているということだ。
モバイルは一発当てるとデカいんだけどねぇ…