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我々は自分の国に住み続けるのが難しそうだから、日本で受け入れてくれない…
我々は自分の国に住み続けるのが難しそうだから、日本で受け入れてくれないか。例えば、日本で人手が足りない看護・介護分野ではどうか――。
外国の首脳からこう言われたら、どう答えるだろうか。
仮定の話ではない。南太平洋の島国、キリバスの大統領が本紙インタビューで訴えた。
地球温暖化に伴う海水面の上昇や異常気象で国土が水没しかねない国は、平均標高が2~3メートルというキリバスだけではない。日本政府は5月、そうした国々を福島県いわき市に招いて「太平洋・島サミット」を開き、防災や気候変動対策、環境保全などで550億円以上の援助を約束した。
温室効果ガスを多く出してきた先進国の一つとして対策に力を入れていくべきだが、事態は深刻だ。「国が沈むのは時間の問題」と話すキリバス大統領が口にした次のひと言が、そう痛感させる。
「尊厳ある移住」である。
災害から逃げるように他国へ移るのではなくて、威厳を持って移住を選びたい。だから、職業訓練を受けて技術や技能を身につけるよう、国民に呼びかけているそうだ。
受け入れ先候補として、例えば豪州とは既に話し合いをしているという。「日本に看護師や介護士として移住する」という提案も、日本の少子高齢化を踏まえたうえで「両国にとって利益がある戦略だ」と強調する。
実際、日本はインドネシアなど3カ国と結ぶ経済連携協定の枠内で看護師や介護福祉士向けの人材を受け入れている。しかし、大統領は、単にキリバスをその対象に加えるよう求めたのではあるまい。そもそも、労働力という次元だけで考えるべきではないだろう。
海外への技術移転を名目に始めた「技能実習制度」も、労働環境の劣悪さが問題になっている。苦境にある人々に連帯するための仕組みにはなりえない。
キリバスに限らず、世界には様々な困難に直面する人たちがいる。そうした人たちに日本が手をさしのべるなら、議論を封じ込めている定住希望の外国人、いわゆる移民の受け入れという課題に向かわざるを得ないのではないか。大統領が言う「尊厳」を保つための思考が日本でも必要なはずだ。
「移民は是か非か」という抽象的な議論にとどまらず、いま世界で起きている問題を見すえ、一つひとつ具体的に考えていく。そうした姿勢が大切だ。
キリバス大統領の発言を、そんな問題提起と受け止めたい。
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