2012年7月のインディペンデントの記事は次の一節で結ばれている。
The Rohingya have lived in Burma for centuries, but in 1982, the then military ruler Ne Win stripped them of their citizenship. Thousands fled to Bangladesh where they live in pitiful camps. Foreign media are still denied access to the conflict region, where a state of emergency was declared last month, and ten aid workers were arrested without explanation.
日本語のウィキペディアも経緯が把握しやすいよい記述だ。
ビルマ人の歴史学者によれば、アラカン王国を形成していた人々が代々継承してきた農地が、英領時代に植民地政策のひとつである「ザミーンダール(またはザミーンダーリー)制度」によって奪われ、チッタゴンからのベンガル系イスラーム教徒の労働移民にあてがわれたという。この頃より、「アラカン仏教徒」対「移民イスラーム教徒」という対立構造が、この国境地帯で熟成していったと説明している。
日本軍の進軍によって英領行政が破綻すると、失地回復したアラカン人はミャンマー軍に協力し、ロヒンギャの迫害と追放を開始した。1982年の市民権法でロヒンギャは正式に非国民であるとし、国籍が剥奪された。1988年、ロヒンギャがアウンサンスーチーらの民主化運動を支持したため、軍事政権はアラカン州(現ラカイン州)のマユ国境地帯に軍隊を派遣し、財産は差し押さえられ、インフラ建設の強制労働に従事させるなど、ロヒンギャに対して強烈な弾圧を行った。ネウィン政権下では「ナーガミン作戦」が決行され、約30万人のロヒンギャが難民としてバングラデシュ領に亡命したが、国際的な救援活動が届かず1万人ものロヒンギャが死亡したとされる。結果、1991年〜1992年と1996年〜1997年の二度、大規模な数のロヒンギャが再び国境を超えてバングラデシュへ流出して難民化したが、同国政府はこれを歓迎せず、UNHCRの仲介事業によってミャンマーに再帰還させられている。2015年現在、膨大なロヒンギャの国外流出と難民化は留まるところを知らない。
この人々について、はてなブックマーク経由で知った記事について、私はあまりにも呆れたので「ブコメの光景が悲惨すぎ」と書いたのだが、それは「グンマー」とかいう「ネタ」としてしか反応できないという例についての個人的な感想だ。シリアスになるべきときにシリアスにならないのは、それがシリアスになるべきときだということがわからないからかもしれない。
基本的にふざけているとしか思えない態度の人々だって、シリアスになるべきときにはシリアスになる。コメディランドの北アイルランドでだって、拷問や英治安機関のひどい行為についてはコメディの態度は取らない。が、「空気を読む」ことにかけては世界に誇れる(んでしょ?)日本で、これを「ネタ」扱いするのがデフォになっているということは、本当に、それが「シリアスな問題だ」ということが前提されていないのだろうと思ったのだ。
……ということだけならそれ以上は書かないのだが(ネットでこんなことを書いたって「上から目線」云々と攻撃されるだけで私には何の利益にもならないし)、ロヒンギャ迫害についてのネット上の情報に関して、ちょっと気になる記事がBBCに出ていたので、ブログを書いておく。
The fake pictures of the Rohingya crisis
http://www.bbc.com/news/blogs-trending-32979147
なお、私がブックマークのコメントで書いた凄まじい写真というのは、BBC記事で「ニセ(フェイク)」と指摘されているものではない。私の見ている画面に次々と流れてきたのは、東南アジアの新聞社・ジャーナリストの流した写真をRTしたもので、ヒューマン・トラフィッキング(「人身売買」だが、ありていにいえば「奴隷の売り買い」だ)の過程で死んだ人々がまとめて埋められている「集団墓地(mass grave)」の写真だ。
どういう状況になっているかはここでは具体的に述べないが(その時間はない)、参照するとよいと思われるひどい写真がないページとして、まず、5月はじめのHRWのページにリンクしておく。タイとマレーシアの国境地帯にある人身売買の拠点で、少なくとも30体の人間の遺体を掘り出された、という報告だ。大量に写真が流れてきたのは5月下旬、同じエリアの人身売買拠点で139体の白骨化した遺体が発見されたときのもので(リンク先にはその写真はない)、BBCはジョナサン・ヘッド記者が半年にわたってこの件を調査しており(←リンク先にある記者の報告の映像に一部ひどい映像が含まれている)、別の記事では過酷な環境のなか、病気になったり怪我をしたりした人は、この拠点から国境を越えてタイの側の病院に行くことはできるが、そうすると不法入国で捕らえられてビルマに強制送還される、といったことが書かれている。
さて、BBCの「フェイク画像」についての記事を見よう。
http://www.bbc.com/news/blogs-trending-32979147
このBBC記事は、「ネット上で何が話題か」という切り口でいろいろな話題を短く分析・解説・報告する BBC Trending というブログ記事のひとつだ。BBC Trendingで取り上げられるのは、「バイラル画像」(例の「青・黒か、白・金か」のドレスのとか)や、「ネット民の反応」とでも言うべきもの(例えばプーチン政権の同性愛者への扱いを揶揄したコラ画像など)が多く、英国外での話題が英国内での話題よりも多いと思う。BBC Trendingには、こういった「まとめサイト」的な内容のものだけでなく、それなりに調べたり取材したりした記事もけっこうある。
当該の記事は、この5月に明るみに出たおぞましい実態についてネット上(ソーシャル・ネット)でも大変な話題になっているが、中にはロヒンギャとは関係のない写真が「ロヒンギャの苦難」としてばら撒かれている例もあるので注意されたい、という内容だ。
例えば、遺体の山の中に仏教の僧侶が何人か立っているという写真が、ロヒンギャに関する検索結果の画像の中に表示されている例。これはFBやTwitterでは「仏教の僧によるロヒンギャに対する暴力の一例」と書かれているが、実際には2010年4月の中国での大地震の被災状況の写真である。
また、全身を火に包まれた男性が道を走っている写真も「ロヒンギャ」として表示される。FBには、この写真に、「生きたまま切り刻まれ、焼き殺される人」というキャプションをつけているグループがある。しかし実際には、この写真は2012年にインドのデリーで中国首脳のインド訪問に抗議して焼身したチベットの活動家、Jamphel Yeshi氏のものだ。
背中に殴打の痕跡がはっきりと見える少年が、木の杭にくくりつけられているという写真もある。「ロヒンギャの少年」とキャプションが添えられているが、実際には、お菓子を盗んだとして親戚から折檻されたタイの子供である。
また、特にインドとパキスタンで広く出回っている写真がある。ウルドゥ語で「ビルマのムスリム」と書き添えられて出回っているその写真は、残忍な拷問のようにも見えるが、実はマーシャル・アート(武芸)のそういう技のお披露目の写真だ。この写真は、BBC記事に例示されているのでご確認を。
おそらく、「ムスリムの同胞たちがこんなにひどい目にあわされている」ということをプロパガンダとして使っている勢力が、ニセのキャプションをつけて画像を「放流」しているのだろうと思う。
日本語圏でも注意されたい。
これらのほか、「大勢の人々が地面に伏せさせられている」ような写真(実際には2004年のタイの抗議行動)、「黒焦げの死体」(実際にはDRCでのオイルタンカーの火災)、「血に染まった服を着た子供たち」(実際にはスリランカ内戦)のような写真が、Facebookで「ロヒンギャ」としてぐるぐる回っているそうだ。
残念なことに、こういった「ニセ画像のばらまき」はもはや珍しいことでもなんでもない。中には個人の単純な勘違いから「誤情報」が独り歩きすることもあるだろうが、悪意のあるイタズラや、組織的プロパガンダの場合もある。
キャプションの書き換えによる「ニセ写真」は、多くの場合、古い写真が今のニュースの写真として「放流」されているものだ。それはGoogleの画像検索などで調べられることが多い(ただしFBやInstagram, Twitter, Tumblrなどで転載が度重なっていると、オリジナルは見つけられないかもしれない)。あまりにショッキングな写真の場合は、真正なものと確信できるところ(例えばロイター、AFPなど大手通信社の写真アカウント)から発していない限りは、少し疑っておくのがよいだろう。
画像検索での調べ方については、少し前のもの(2012年の秋)だが:
http://matome.naver.jp/odai/2135165075038988901
過去にあった事例については、上記「まとめ」の6ページ以下にリンクしてある:
http://matome.naver.jp/odai/2135165075038988901?&page=6
つい先日のガザ爆撃(日本時間6月4日)でも、「今の写真」として2012年や2014年の写真が少し出回っていた(「まとめ」には入れていない)。ガザ地区のジャーナリストがそれら偽写真の指摘に時間を取られるという状態で、このニセ写真のばら撒きには何の意味もないけれど嫌がらせとしてだけは威力があるという結果になっている。
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