韓国を窮地に追い込む「中東呼吸器症候群(MERS)の恐怖」拡大を断ち切るには、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が自ら表に出るべきだという声が相次いでいる。
朴大統領は1日の大統領府首席秘書官会議で徹底対応を指示、翌日に大統領府内に緊急対策チームを設けたのに続き、3日には緊急対応会議を自ら主宰した後、「官民総合対応タスクフォース(TF)」を発足させた。しかし、MERS問題が深刻度を増す中で連日対応を強めているものの、拡大する一方の「MERSの恐怖」を断ち切るには不十分だという見方もある。「心配するほど深刻な状況ではない」と韓国政府や医療関係者は説明しているが、「MERS防疫体制」に対する不安の方が上回っている状況だ。
政界では4日、「朴大統領が表に出よ」と要求する声が上がった。最大野党・新政治民主連合の文在寅(ムン・ジェイン)代表は「2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)発生時は大統領府がコントロールタワー(司令塔)役になり、首相が汎政府対策機構を陣頭指揮した。当時のの経験を生かし、MERSに対しても大統領が自ら表に出て中心となるべきだ」と述べた。
野党の主張は政治攻勢的な面もあるが、「大統領役割論」は共感を呼んでいる。イ・マンソプ元国会議長は「こうした国家的な緊急事態で国民は誰を信じろというのか。朴大統領は事態の解決を陣頭指揮し、国民を安心させる努力をしなければならない」と言った。金守漢(キム・スハン)元国会議長も「広がる国民の不安を払しょくするには、大統領ができるだけ早く表に出る必要がある」と語った。
専門家らは「政府や医療関係者が『防疫総力戦』を展開している中で大統領が恐怖の拡大を断ち切る役割を果たせば、効果的なはずだ」と話す。
大統領府も一時、朴大統領の現場視察などを検討したと言われていた。大統領府関係者は「大統領が先頭に立てば、かえって事態の深刻さを浮き彫りにして不安が増す懸念もあるため、ひとまず防疫の状況を見守っている」と語った。だが、国民が感じる不安は大統領府が「懸念」する段階を通り過ぎ、すでに臨界点に達している状況だ。
米政府も昨年4月のMERS発生には対応できていたが、9月のエボラ出血熱発生の初期対応には失敗している。2014年9月末に最初のエボラ出血熱患者に対する病院の不十分な対応で数百人の感染が疑われ、米社会は1カ月以上「フィアボラ(fearbola=エボラの恐怖)」にさいなまれていた。当時、米疾病管理予防センター(CDC)などに批判が集中した中、オバマ大統領が自ら立ち上がった。毎週定例で行われているラジオ演説で同年10月18日(現地時間)、オバマ大統領は「エボラ出血熱は深刻な病気だが、恐怖に陥ってはならない。私はエボラ出血熱の患者を治療していた医師や看護師とハグし、完治した人々と会ったが、大丈夫だ」と言った。
このため、大統領府の周辺では「朴大統領もできるだけ早く現場訪問などをして、国民に『安心してほしい』というメッセージを出す必要がある」という声が上がっている。